「ねぇ」
うとうとしていると、ボーイソプラノが聞こえてきて、俺の意識は浮上する。
開始のベルが鳴るまで。
「ねぇって」
肩をゆすられる。
「・・・・んん?」
「ねぇ、おにいさん、何て名前?」
「・・・・俺ぇ?」
目が覚めかけていた俺は呼びかけに答えて顔を上げた。
「そう、おにいさん」
そこには猫のように笑う銀髪のくせっ毛の男の子。12・3歳くらいかな?
面白そうに俺を見下げている。
まだちょっとぼやける視界に、俺は目をこすって頭を振る。
「ねぇって。名前教えてくれって」
俺が目を擦っていると、少年はキラキラした楽しげな目で再度催促する。
その様にちょっと悪戯心を擽られた。
「・・・・名前を聞くときは、まず自分から。だろ?」
なんて、ちょっとからかって言う。
「そっか。俺キルア。・・・・おにいさんは?」
案外あっさり折れて、再度聞かれた。
・・・・けっこう素直な子なんかな?とその子の印象をちょっと変える。
完璧に目が覚めた俺は、立ち上がって「ん“〜〜」と伸びをしてから
「俺は。よろしくな。キルア」
俺の胸くらいの位置にあるキルアの頭を、ぽんぽんとしながら言った。
そしたら「子ども扱いすんなよっ」とキルアはそっぽを向いてしまった。ちょっと赤くなってて可愛い。
「ごめんごめん」
軽く謝って、「お前の髪ってやわらかくって気持ちいいな」って誉めてやる。
さっきから触ってる髪の毛もふわふわだ。気持ちいい。
手触りの良いもの、ふわふわもこもこ大好きな俺は自然と口が緩む。でれでれです。
「・・・・そ、そんなことねぇよ!」
「お?照れてる??」
「違うって!!」
ムキになるキルアを見てクスクス笑っていると、またキルアはプイとそっぽを向いてしまった。
こんな弟がいてもいいなぁーなんて思っていると、キルアが何か見つけたようで、声をあげる。
「トンパさーん!さっきのジュースもっとくれる?」
見事に鼻の四角いおっちゃんに声をかける。
「え?あ、あぁ。いいぜ」
そういってちょっと顔を引きつらせつつ4本ほどジュースをとりだしてキルアに渡すおっちゃん。
「キンチョーしてるのかなーノド乾いちゃって」
キルアはおっちゃんのビクビク加減を気にもとめずニコニコしている。
「おいキルア。いくら緊張してるっても、オヤジ狩りは良くないぞ?オヤジ狩りは」
「ちっげーよ!!お近づきの印っつってくれたんだよ。んで、欲しかったら声かけてくれって言われてたわけ。」
「そうなのか?おっちゃん良い人だな〜」
鼻が四角いだけのおっちゃんじゃなかったんだな。(失礼)
「あんたもルーキーだろ?俺はトンパ。よろしくな。俺もう35回も受けてるベテランだから、なんかわからないことあったら聞いてくれよ。」
そういうと、俺にも一本ジュースを差し出して、
「お近づきの印だ。あんたも飲みなよ」
・・・・・おっちゃん・・・!!ここまで良い人だと裏があるんじゃないかって思っちまう程良い人だぜ。
「さんきゅ」
その間キルアはぐびぐびジュースを飲んでいる。俺も受けとって缶を開けて口をつけた瞬間、
「薬くせぇ」
口に少し含んだ液体から奇妙な臭いを感じ、俺は直ぐにソレを吐き出した。
やっぱ裏があったのかおっちゃん。しかも多分下剤。えげつねぇ!!
このトイレの無い環境で耐え忍ぶ苦しさといったら想像しただけで可哀想だ。
まぁ、ここはハンター試験会場だし。小物がこういう細工するのはあるかなぁとは思ってたけど。
俺がじとっとおっちゃんに視線を移すと、それはもう可哀相なくらい冷や汗が流れている。
「大丈夫だぜ?俺怒ってねぇし。どうこうしようって気はねぇから・・・・・・っとキルア平気か?」
「あ〜うまい!!」
美味いのか?!
おっちゃんもキルアを凝視する。それに気付いてキルアがおっちゃんに話し掛ける。
「心配?・・・俺なら平気だよ。訓練してるから。毒じゃ死なない・・・・行こうぜ」
とりあえずキルアとその場を離れる。
「キルア下剤入ってたの知ってて飲んでたのか?」
「何か入ってるのは気付いてたけど。下剤だったんだアレ。」
「あぶねぇなー。猛毒だったらどうすんだ。」
「訓練してるから人用の毒なら大抵平気」
「・・・・すげぇな」
「毒ダメなんだ?」
「そりゃ〜なぁ、普通・・・。まぁ弱くはないと思うけど、人並みにダメだって。」
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ
突然ベルの音が聞こえ、その方向には立派なお髭のジェントルマンが。長い足が羨ましい。
ベルが止まり、ジェントルマンが静かに口を開く。
「ただ今をもって、受付時間を終了いたします。
では、これよりハンター試験を開始いたします」
ハンター試験開始。
キルアと仲良くなりました。
050914.