はじまり

 

じいちゃん、行ってきます。

俺はハンター試験を受けてきます。

ほぼ、・・・強制で。

 

 

00.始まり

 

 

「あ、そうだ。 、お前ハンター試験受けてこい」
こんな軽い感じの一言がはじまりだった。


 


荒れた大地はどこまでも広がり、所々申し訳程度に草木が生えている。
二人の男がそこで常人には見えないだろうスピードで攻防を繰り返していた。
一人は意志の強い眼差しの童顔の男。タンクトップと長ズボンというシンプルな服装は土ぼこりに汚れており、
その顔には無精髭がちらほら。
彼こそ世界で5本の指に入ると名高い念使い。ダブルハンターのジン=フリークスその人である。

もう一人は黒衣に身を包んだ小綺麗な服装の若い男。フード付きのロングコートをはためかせ、身の丈を越すような大鎌をふるっている。
艶のある薄紫の髪とそれよりも赤みの強い瞳の一見華奢な男。


ジンは男の振りかぶった鎌をよけ、その毒々しい赤い柄を思い切り蹴飛ばす。男は耐えようとするそぶりを見せたが、むなしく10数メートル後ろへ飛ばされ、壁へと激突した。


「まだまだだな!
ジンは楽しそうに壁へと埋まった男、 へ声をかけた。
「ジンさんに勝てたら化け物の仲間入りだって」
もあきれたような苦笑をにじませた声を返す。
ボコリと瓦礫をどかしながら出てきた彼に目立った外傷がないのが、彼の実力を物語っているようだ。

「化け物とはなんだ!師匠にむかって失礼な」
「師匠って呼ばれるの嫌いなくせに、都合のいいときばっかり!」
憤慨するジンに はまた苦笑を返す。


「にしても、見ないうちに強くなったな、
久々に手応えのある手合わせにジンは満足げだ。本気と云う訳にはいかないが、それにしたって数年前とは見違えるようだ。


は諸事情により、10歳頃から4年ほどジンに師事したジンの2人目の弟子である。
そんな彼も二十歳。今年は21歳になる。
16の時ジンの最終課題、「俺を捕まえてみろ」をクリアし独り立ちしてから彼があちこちを飛び回るジンに会いにくることは無かったが、仕事の安定を理由に数日前姿を現した。かれこれ4年ぶりの再会だ。

 

「そりゃ4年経って成長してなかったら合わす顔ねえって」
笑いながらはすっと鎌を宙に投げた。空中で鎌は粒子になり、彼の左中指の指輪の石へと吸い込まれた。

の諸事情とはコレだった。

この世界の裏で重宝される能力、念能力とは異なる鎌。

数年前他界したの祖父は異世界トリップ能力を持つ念能力者だった。
無自覚に世界を移動しては妙なモノをもって帰る困った祖父は、とある世界でこの大鎌をみつけてもって帰ってきた。
その昔その世界で妖怪や物の怪などと呼ばれるものとの戦いに用いられたという鎌は、平和になったその世界でひっそりと奉られていた曰く付きのもの。
名をツルバミと云う。
一度契約が結ばれると本人がいくら拒もうと手元に戻ってくる鎌と、うっかり契約が結ばれていまい困った末、祖父のツテでジンに話が行ったと云う訳だ。


念とはまた少し違った、ほんの一握りの人間が使える「気」という力で使役するこの鎌は、
特殊な部分が多く、 がジンの修行を終える頃には、宝石に収納できる他、「気」を便りに知り合いのもとへ瞬間移動できるなど、様々な事が出来るようになっていた。さらには本気になれば人型にも出来るという規格外品である。
初めて装備してしまった頃は外そうと必死だったが、今ではすっかり馴染んでしまい、いい相棒と化している。


相変わらず面白い一品だと鎌に意識を向けていたジンが、ふと、 に意識を戻した。
そして思い出したように言ったのが、冒頭の台詞である。

 


****

 


「はへ?」


思わず間抜けな声が出たのはご愛嬌ってことにしてもらいたい。
すべて目の前に居る素っ頓狂なオヤジのせいだ。

「今、なんて?ジンさん」

「だから、ハンター試験受けてこいよ」


まるで「ちょっとそこのコンビニ行ってこい」と同じくらいの気安さで言われた。
最難関といわれる試験をこのオヤジ軽々と!

 

ぶっちゃけると、面倒くさい。
ちょっと曰く付きの鎌にうっかり気に入られてるだけの小市民なんだ俺は。
唐突すぎるよ?自由奔放すぎるよ?俺マジついていけないよ?

俺がイヤそうな顔をすると、ジンさんは輝かしい笑顔で「面倒だとか言ったら張っ倒すぞ」と宣った。
ジンさんの馬鹿力で張っ倒されたら死ねる、マジで。


「お前もハタチになったわけだし。それに資格あったほうが、仕事楽だろ?」

「や・・・そうだけどさ」

法律なんかにバッシバシ引っ掛るような仕事もするっちゃするから、ハンター証は何かと便利だ。


「ネテロ会長なんかにも頼まれててな。”お前に試験を受けるように言ってくれ”ってな」
「ネテロじぃちゃんが?」
「おう!お前はいいハンターになるってな。俺もそう思うぜ。・・・それに、今年の試験には俺の息子も参加するみてぇだしよ」
「・・・正直、息子見てきて欲しいだけじゃねぇの?」
「・・・・・違う!断じて違う!!」


かあっと赤面するジンさんに説得力はない。
まあ、誰かに背中を押されない限り、率先してハンター試験なんぞ受けようとは思わないからいい機会なのかもしれないと思う事にする。
自己暗示自己暗示。


「それにしても、試験てもうすぐじゃなかった?今年はさすがに間に合わなねえよ」

「あ。平気平気。もう申し込んであっから!

「・・・・・・は?」
俺は本日2回目の間抜け顔を疲労する羽目になった。
ゴーイングマイウェイ過ぎるおっさんに、俺はどっと疲れを感じた。


 


「大丈夫大丈夫!!お前なら絶対受かる!」
「始めから俺に拒否権なんてなかったんじゃねえか」
「まあ気にすんな!とりあえずハンター試験受かってこい!」
わはは!と豪快に笑うと、俺の頭をぐりぐりなでるジンさん。
俺は諦めの溜息と共にやる気の無い返事を返した。

 

じいちゃん、どうか死地に赴く俺にエールを!


項垂れる俺に、ジンさんが何とも言えない顔で苦笑してたことに、俺は気づかなかった。

 


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2010/10/