試験会場への入り口は、美味しい匂いが漂っていました。
01.試験会場
ジンさんに嵌められて、というか、強引に送り出されて渋々やってきたハンター試験。
ナビゲーターのキリコについていけば、そこはお食事所。
マジか、ハンター協会。マジでここが入り口なのか。
美味しそうな匂いが漂うそこで”ステーキ定食、弱火でじっくり”というと、あからさまに店主が反応し、奥に進むようにいわれた。個人的にはステーキ定食じゃなくて、看板にあった目玉焼きの乗ってるワンプレートが食べたい。
キリコと別れて部屋に入れば部屋ごと下へ動く気配。
...マジか、ハンター協会。
チンッという軽い音で部屋のドアが開いた。
モグモグとステーキ定食を租借しながら扉脇をみれば、B100の文字。
何でもありだなハンター教会。もう乾いた笑いしか出てこないよ。
「...って少なっ!」
着いてしまったからには仕方がないと諦めて外に出れば、そこは薄暗い地下道らしき広い空間が広がっていて、ちらほらと受験者らしき人影が見える。20もいないんじゃなかろうか。
し ま っ た ! 早く来過ぎた。
こんなことならもう少しキリコ宅で遊んでくれば良かった!あの毛並みを堪能してくれば良かった!
俺が目の前の光景と自分の愚かさにうち拉がれていると、控えめに俺のコートの裾が引かれた。
視線を落とせば、豆みたいな人が番号のプレートを差し出していた。
豆!まめだよ!ちっこいよ!!なにこれ、てか人?(失礼)
俺は新種の動物(だから失礼)の発見に興奮して目を輝かせた。端から見たら変な人決定だ。だがしかしこんな面白い人物を目の前に無反応だなんてこと、できますか?いや、できない!
「・・・あの?」
凝視する俺に豆さんは困ったように笑った。
「あ!あぁゴメンナサイ。」
慌てて差し出されたまま放置されていたプレートを受け取る。
受け取ってみれば俺の番号は13。
これって何か不吉なんだっけか??
・・・・・・・・・・まぁいいや。
あまり深く考えてもしょうがない事柄だと判断して、とりあえず、腰の辺りにつける。
なごり惜しいがここに居ては次ぎ来る受験者の邪魔にもなるし、できれば目立ちたくないから、豆さんの前から退散して隅のほうへ移動する。
まず、ハンター協会の人とはあまり関わりたくない。なぜって?
そんなもん面倒な狸じじぃに目をつけられないためさ!会長の権力やら特権やらを振りかざされたら溜ったもんじゃない。今年試験に参加していることは知ってるだろうけど、大人しくしとくに越したことはない。
俺の格好は、黒の肩口の開いたタンクトップの上に、黒のシンプルな細身のロングコート、フードつき。
下はこれまた黒のスッキリしたズボン。そして黒のブーツ。右の腰には美容師さんのシザ−バックに似た赤い薄いかばんに最低限の持ち物を入れて、その他ヲレットチェーンやベルト。鞄とかはコートに隠れるから、そんなに目立たないはず。全身黒統一なので鎌の他に目立つ要因はナイ!・・・ハズだ。
俺の相棒ツルバミは、2メートルはあろうかという大鎌だ。ひょんなことから契約が結ばれてしまった俺は、色々な能力を得た訳だけど、もちろん欠点というか、制約のようなものはあって、必ず側に置いておかないとならない、というか、ツルバミは俺の側を離れられない。3メートル以上離れると自動的に手の中に帰ってくるという呪いの人形も真っ青なオート帰還機能付きだ。
俺の意のまま邪魔なときは形を変えたり、いろいろ可能で、指輪についてる赤い石に収納することも出来る。けれど、人に見られると厄介だし、騒がれるのも面倒。それに、なんだかんだでこの鎌を気に入っているのもあって、なるべくもとの形のまま持ち歩いている。選ばれたばかりの頃「お前はそいつと長い付き合いになるんだし、なるべくもとの形になれとけ」とか言われていたので、その癖ってのもある。
それにしても視線が痛い。
ピリピリと俺の肌を焦がしてるよ。流石ご飯所の地下であろうとハンター試験会場。
ここの皆さんはライバルの観察に忙しいらしい。
小市民の俺のお肌がささくれ立ったらどうしてくれるのさ!
ぼんやりとしている間に何人か増えたようだけど、この分じゃまだ暫く試験は始りそうもない。
この視線に晒され続けるのも嫌だし、本持ってくるのは忘れたし、もういっそのこと寝てしまおうか。
思い立ったら吉日。俺はそっと気配を絶つと、パイプの上へ移動してゆっくりと惰眠を貪ることにした。
太いパイプは寝るには十分なスペースがある。
壁にもたれて座り込む。立てた片足に頭を乗せ、鎌を抱き込むようにして寝る体制に入る。しっかりフードをかぶることも忘れない。
いつもの体勢だ。いつ襲われても大丈夫な体勢。サバイバルな環境では特に。
身に沁みている事だ。
そしてサバイバルのおかけでこんな状況でも寝れちゃう図太さGET。素直に喜べないのが難点だ。
それから俺は5分と経たずに眠りの世界へ足を突っ込んだ。
きっと今の俺なら早寝選手権とかで上位入賞できる。
・・・・・・・まぁどうでもいいけど。
おやすみなさい。
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2011/02/