ゾルディック家を後にして、俺は久しぶりにアイツに会いに行った。
情報屋
午前10時ごろ、遅めに起きてご飯を御馳走になってから、俺はゾル家を出発した。
目的は情報屋ロイス。
仕事を始めたばかりの頃に知り合った、中々腕の立つ情報屋だ。
慎重な仕事には情報が必要不可欠。
俺は鎌の能力を使って奴のところへ飛んだ。
「いらっしゃい」
落ち着いた柔らかい声。
俺が現れるや否や、ロイスはにっこりと微笑んだ。
俺が現れるのを知ってたかのような落ち着きようだ。
「久しぶり、ロイス」
「そうだねぇ。久しぶりクリムゾン君」
ロイスは40才くらいの男性。出会った頃からは多少老けた気はするが殆ど変わってない。
ノンフレームの眼鏡で、肩まであるウェーブの髪を後ろでちょろっと一つに縛っている。色は深緑。
今はスーツの上着を脱いで、ベストとネクタイ。スーツは茶系でタイはワインレッド。
優しげに微笑んでいて、いかにも品の良いおじ様な感じだが、実は中々鋭くて食えない。
「2年ぶりかな。大きくなったね。・・・それで、今日はどんな御用かな?」
俺に椅子を勧めながら尋ねてくる。
部屋はアンティークな家具が多く、英風だ。
「仕事で。・・・ヨークシン、もしくはヨークシン近郊で、1ヶ月ほど隠れられる場所を探してる」
「へぇ・・・オークション関連のお仕事か。大変そうだネェ」
「・・・・・まぁ」
ニコニコとお茶なんかを出しながら、きちんとこちらの言動から情報を読み取る。
「足のつかない方がいいんでしょ?ホテルや宿屋みたいなのじゃなく、どちらかといえば空家や廃墟」
「できれば」
「うーんそうだネェ」
カチャカチャとノートパソコンを弄るロイス。
「人に見られるのも困っちゃう?」
「そうだな」
「だよね。それじゃぁ、都心のココと、近郊のココあとはココ」
パソコンの地図を見せながら三箇所を指差す。一つはヨークシンの外れ。もう一つは都心近く。最後はやや西側。
「どれも廃墟だよ。取り壊しや調査が予定されてないのはこの3箇所」
手早く地図と写真をプリントして渡される。
廃墟といっても、なかなか確りした造りだ。外壁はそんなにダメになっていない。
「とりあえずシャワーが使えるのはココとココ」
と郊外と都心の2箇所を指す。
「どれもさすがに電気は通ってないね。水はどこもOK。他に聞きたい事は?」
と書類を覗き込んでいた体勢を直して、優雅に足を組みながら尋ねてくる。
「いや、ない。助かる」
マジで。案外下手なところに行くと捕まっちゃったり、誰かの溜まり場だったりするし。
「今の情報だと誰も使ってないと思うよ」
そう言ってにっこり笑う。
「ところで、クリムゾンの今回のお仕事はそのゾルディック家の箱でしょう?」
「・・・・・・・・さすが」
笑顔を崩さないまま疑問系ではあるが、むしろ確認のような響き。
「まぁお仕事ですから」
そういってロイスは満足気にVサインをする。
御茶目さんめ。
「で、今回の報酬に、その情報が欲しい訳か?」
「その通り!」
「どれくらい漏れてる?」
「そうだねぇ、ゾル家が君にお宝の運び屋を頼んだこと、それから、かなりの値打ちになること・・・くらいだね」
交換条件だ。
どっちかっていうと、ねぐら探しよりコッチが本題。
どれくらい情報が漏れているか知る必要があった。
「俺も良くは知らないがな、ゾルディック家の倉庫にあった品だそうだ。中身は不明。開ければ死ぬと忠告された」
「へぇ、念かい?」
そう言って俺の脇に置いてある布に包まれた四角い箱を見る。
「・・・そうみだいだな」
念を覚えた今なら分かるが、ロイスも念使いみたいだ。
「念といえば、ようやくクリムゾンも念を覚えたみたいだねぇ」
「・・・まぁな」
「今回は、クリムゾンの念能力者化と箱の情報。あとは30万くらい貰えると嬉しいなぁ」
「安いな。それだけか?」
「良い情報が手に入ったからね」
「あとで倍振り込んでおく」
「さっすが」
ロイスはにっこり手を合わせる。
「そういえば、俺の情報はどれくらい巷に漏れてんだ?」
「そうだねぇ、君もハンター試験に行って来たなら大体聞いたと思うけど、フードを目深に被ってることとあとは戦う姿が綺麗ってこと、あと男だってこと。
それ以外はいろいろごちゃごちゃと。面白いよ。尾ひれついてたして」
「尾ひれぇ?」
何だそれはと思いっきり顔を顰めてみせる。
「うん、本当に地獄から来たんだ〜とか、本当は女で超美女だとか。あれだね美少女戦士系!」
「げぇ」
テンション下がりまくりの俺と対照的に、クスクスとロイスは楽しそうに笑う。
「あ。もちろん君についての情報は流さないよ。信用第一ってね。また御贔屓にしてね」
まぁ、いざとなったら売っちゃうかもしれないけどねと悪戯に笑うロイス。
まぁそこら辺はしょうがない、そういう商売だ。
「信用してるよ」
「そう言われちゃうと裏切れないよネェ」
へらりと笑う。
それから玄関まで送ってもらう。
「それじゃ」
「あ、一つ忠告。僕が知ってるので分かったかもしれないけど、君がゾル家の依頼を受けている事は広まり始めてるよ。気をつけて」
「わかってる。ロイスのオススメの場所で、しばらくじっとしてるつもりだ」
「情報は日々変わるから、必ずしもそこが安全とは言い切れないからね」
「まぁそのときは何とかする。これでも一応プロだからな」
真剣に忠告してくれるロイスに笑みを零しながら応対する。
「・・・あ、そうだ」
「何?」
「コレ。かわったから」
差し出したのは紅い名刺。メールは変わらないが番号は変わった。
名刺にさっと番号を走り書いて渡す。
「どうもv・・・本当に君は変わってるよね」
「・・・なんか最近、そう言われる事増えたんだけど・・・」
何故だ!俺は普通なのに!!!!凹むぞコラ。
「ぶっ・・・・・あはははははは・・・・っははははははははは」
ふるふると耐えていたロイスが、突如大笑い。どうやら我慢できなかった様子。
・・・マジ凹むゾこの野郎。そこまで笑わなくてもいいじゃねぇかコンチクショー。恥ずかしいだろ!
俺のホッペは今ちょっと赤いに違いない。
ロイスはいい情報屋だと思うから渡すだけ。ただそれだけ。
俺が信用したから教える。
下手な連中にロイスは情報を売らない。
「まぁ、信用してるぜ?情報屋さん」
「ご武運を。クリムゾン」
「じゃぁな」 「またね」
そう言って別れた。
目指すはヨークシンシティ。
20060401