「いいか?クラピカ、覚えとけ。俺は蜘蛛の誰かが死んだり、傷ついても悲しいし怒るがな、クラピカがそうなっても、俺はすっげぇ悲しいし怒るからな」

カヤトはわざとらしくプンスカと怒りながらそう言うと、穏やかに微笑んで静かにこう続けた。

「なぁクラピカ、復讐ってもう何も持ってないヤツがするもんだろ?お前、すっげぇでかくてイイもん、見つけたじゃねぇか」

 

その声を聞きながら、私は意識を手放した。

 

 

 

 

青い月

 

 

 

 

「「クラピカ?!」」

突如、ふらりと倒れたクラピカに、レオリオが駆け寄り、ゴンが驚いたように声をあげた。

おそらくは疲労、その他もろもろ。

まぁ、俺を除けもんにした代償だと思いやがれ!ははん!

しっかり休んで頭冷やせ。

 

 

「レオリオ、とりあえず横にして、あと栄養剤あったらやってやれ。たぶん熱出すだろ?」

「あぁ、その可能性は高いな。とりあえずベットに運ぶか」

レオリオがクラピカを抱き上げて出て行く。

「・・・パク、座れば?怪我してんだろ?ゴンとキルアも」

開いた席に促す。

 

そしてすかさずチビッ子どもにはゲンコツをお見舞いする。

 

「「いったぁ〜」」

「なにを!?殴ったこの手も痛いんだぞ?!

「うそつけ!」

キルアがじと目で此方を睨むけど気にしなーい。しっかりガードしかたら痛くないけど気にしなーい。

定番のこの台詞、一度は言ってみたいじゃん?

 

 

 

「さて、説教は終わり。今度は別の話」

俺が切り出すと、皆が俺に視線を寄越す。

「まず、パクはクラピカに何を制限されてるか教えてくれ」

しばし沈黙が落ちる。辺りはついているけど確認したい。

ゴンとキルアは知らない様子だった。パクは口を開かない。

センリツさんに視線を寄越せば、すこし視線を泳がした後、しょうがない、というように苦笑した。

「・・・・・・・・念能力の使用禁止と、クラピカについての情報を漏らさない事よ」

「・・・どうも」

今度はパクへ視線をやる。

パクはいたって穏やかだ。そうこれは覚悟の顔。

 

 

「・・・・・パク、死ぬ気だろ」

 

 

「・・・・えぇ」

「ダメだからな」

俺もパクも譲らない。見つめ合いが続く。

 

 

「・・・・私が説明しないと、蜘蛛は納得しないし、このままでは蜘蛛がバラバラになってしまうわ。

・・・・・・・・・私で最後にして欲しいの」

 

「ダメ」

 

 

俺は間髪入れずに言う。ぜっっってぇ譲ってなんかやらねぇ。

「ダメッたらダメ、ダメダメダメダメ!!」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

「・・・・なんだよ」

そのなんか可哀想なものを見るような目は。

 

 

「とにかく!パクは俺とアジトに行くぞ」

「ちょっと待てよ、はクラピカを裏切んのか?」

キルアが眉間に皺をよせて言う。

「いや。俺はどっちも裏切らない。ただパクは死なせたくないだけだ。てかそもそも俺は除け者にされてて、今回の件に関してはどっちとも手を組んだ覚えは無い!!」

俺は根に持つぞ。今回ばっかりは。

「・・・・じゃぁ、どうすんだよ」

 

 

「とりあえず、除念をする」

 

 

「「除念?」」

「そんな・・・除念師なんてそう簡単に見つかるものじゃないわ、そんなに時間はないのよ?!」

チビ共が首を傾げ、パクノダが批判的な口調で言う。

「いや、アテがある」

俺です!とは、さすがに言わないけどな。

 

「ねぇ、除念って何?

ゴンが興味深々ですっていうキラキラした目で聞いてくる。

うっ!汚れたお兄ちゃんにはちょっと眩しいよ、ゴン。

「んーそうだな。除霊とかって知ってるか?」

「「うん」」

「あれと似た感じだな。他人の念を除去する能力の事だな。世界的にも数が少ないらしいぜ」

「「へぇ」」

「それで、パクの心臓に刺さってるクラピカの鎖を除去する」

「でもそしたらクラピカの情報が向うに漏れちまうじゃネェか」

キルアが口を尖らせる。

「・・・・そうだなぁ、でもすでにバレてるんだろ?顔とか」

「えぇ、顔と名前なんかはすでに分かってるわ」

「じゃぁ、バラされてもいいんじゃねぇ?どうせパクが命がけでバラすつもりだったんだろうし、手の内がバレればクラピカもちょっとは慎重になるだろ」

俺の言葉に、センリツさんが苦笑した。

 

「それに、除念師は貴重。蜘蛛もクロロの念も解除したいはず。なら交換条件だ。解除してやるかわり、故意にクラピカやお前等に関わらない事。殺さない事」

な?と2人を見やれば、驚いたように目を見開いていた。

「そっか」

「でも、それを奴等が守るとは限らねぇだろ」

ゴンが素直に頷いて、キルアが怪訝そうにそう言った。

「俺が有無を言わせねぇ。ノブナガだってそこまで子供じゃないだろ」

パクが命をかけてまで、これ以上の仲間の死を止めようとしてるんだ。

無鉄砲な事はしないだろう。

「じゃなきゃ、クロロを脅して団長命令出させる」

「おど・・・・っ?!」

「な?」

俺が超絶作り笑顔で言えば、キルアが渋々頷いた。

 

 

 

「・・・はぁ、結局クラピカの努力は水の泡だな」

「そうでもないと、思うわよ?」

ソファーにぐたりと背を預けていったキルアに、異を唱えたのは意外にもセンリツさんだった。

「今回の事が無かったら、クラピカはきっと・・・貴方の言うとおり、止まったままだったもの」

 

部屋に沈黙が下りる。

それぞれ、今回のことについて思うことが有るんだろう。

 

 

「・・・俺の持論・・・てかじぃさんの受け売りだけどな。

復讐ってのは、もう守るものが無い者がするもんだ、感情に焼かれて衝動的にすんのは馬鹿だってな。

復讐の次に待ってるのは相手側からの復讐。その悪循環。それがわかってれば、守るものがある奴は復讐なんてできねぇだろ。完璧に勝てるほど、よほど強くなけりゃ」

いつかテレビ番組をみてたときに、じぃちゃんが言っていた言葉。妙に納得したのを覚えてる。

「・・・うん。俺もそう思う」

ゴンが神妙に頷いた。

「まぁ、憎しみでも、なんでも、あれば生きる糧になるってのも事実だし。どうしようもないときもある。

人間は厄介だし、馬鹿だからな。俺だって日々ちっちゃな復讐企んでるし

例えば、ネテロじぃちゃんの髭をいつか三つ編みしてやろうとか。たてロールも捨てがたいけど。

こっそりクロロの読んでる本のしおりの場所をずらしてやろうとか。(姑息

 

「人ってのは面倒くせぇーんだ」

 

ホントに。

だから面白いとじぃちゃんはそう締めくくる。いつも。

 

 

 

「さて!んじゃ、さっさとパクの除念するか

「「「「・・・へ?」」」」

俺の言葉に一様にぽかんとする一行。

「何だ?俺変なこと言ったか?」

「言った。除念師・・・だっけ?ここにいねぇじゃん」

あぁ、そういうことか。

「んなもん、問題なし。薬持ってるから」

「「「「薬?」」」」

なんか。俺の周りってハモリの達人多くね?

「その宛の奴からあらかじめ買い取ってあったのがある。もしもの時用だから、生憎、今は一つしかねぇけど」

もちろん、買い取ったとか嘘。

薬ってのと1個しかないのは、嘘じゃない。

あの赤い液体を応用して作った。

一。欠点は物ならそれ全体に直接かける必要があること。

二。人や動物なら、服用しなくてはならないこと。

三。そしておそらく美味でないこと。

・・・まぁそこらへんは我慢だ。

この念が完成してから、ネットで実験台を募集したら軽く100件くらいきたし。保証しねぇっつうのに。

まぁそんなチャレンジャー&切羽詰ってンジャーに試させてもらったところ、成功。

それから結構評判のいい、この薬。

 

「じゃーん!除念薬”青い月”」

 

小ビンに入った気味の悪いほど真っ青な液体。

「ブルームーン?」

「そ。そういう名前らしいぞ」

繰り返すゴンに、何食わぬ顔で伝聞形で答える。

これにはちゃんと商品化に向けて名前を付けた。

由来はいつの日か見た真っ青な月と同じ色だから。

 

「はいよ、パク。ソレ全部いっき飲みしろ。飲んだ事ねぇから味は保証しねぇけど」

小さなビンを手渡す。

パクはちょっとばかしビンを観察してから、俺に目配せして頷いた。

ビンのふたを開け、いっきに飲み干した。

いやぁ潔いね。

 

「「・・・・!!」」

 

飲んだ後、しばし口元を押さえていたパクが目を見開いた。

センリツさんも、同じタイミングで息を呑んだ。

「・・・・パク?」

「・・・飲んだときは、ただ凄く冷たいと思ったわ。味は・・・ないのかしら?感覚だけ。

さっき、こう・・・胸を縛っている何かが消える感覚が・・・・」

パクは自分の心臓付近を撫でて、困惑したように言った。

ただ、そういうことされると、とっても際どい御洋服なおかげで目のやり場にかなり困る。(だって男の子だもん!

 

少し目を彷徨わせて、同じタイミングで驚いてみせたセンリツさんへ顔を向ければ、唖然としてパクを見ていた。

 

「・・・すごいわ。彼女の心音が元に戻った」

 

なんでも、センリツさんはものすごく耳がいいらしい。

念をかけられていたときの、不自然に抑制された感じが消えたそうだ。

 

 

「間違いないわ。除念は成功よ」

 

 

俺はそれを聞いて満足気に笑った。

 

 

 

 

最後には皆笑えればいい。

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20060911 ヨークシン編終了。