『強くなれ、。強く』
何度となく聞いた、祖父の声。
説教
俺とパクはクロロとヒソカを置いて、クラピカたちの飛行船に乗る事になった。
おそらく、パクが俺を気遣っての申し出。
クラピカは意外にも大きく溜息を吐くと了承した。
早く乗ろうとゴンに急かされつつ、俺は一度クロロを振り返った。
「・・・・話してくれなかった事、根に持つかんな、馬鹿クロロ」
「・・・・わかった。ただ、お前を巻き込みたくなかっただけなんだ。それだけ、わかって」
「・・・・・わかってるっつの馬鹿」
俺はオールバックの癖に情けない表情をするクロロの全開になっていたデコに思いっきりでこピンをかました。
「った!」
「いいか、お前一回絶対に風呂は入れよ?んで、服も洗濯すること!俺のファーがごわごわになったら許さんからな!」
「わかったよ」
クロロが笑う。俺は不敵な笑みを返す。
「・・・またな、クロロ」
暗に死ぬなと、無事でいろよとこめた思いを、クロロはいとも簡単に汲み取って不敵に笑った。
「・・・あぁ」
「・・・ムカツク」
「はいはい、またな」
軽く頬にキスをされる。その際小さい声で、ごめんと言われた。
「・・・お前、それ旅団の奴等全員に言いやがれ」
そして笑い合って別れた。
+++++++++
ヒソカは結局旅団の一員のふりをしていた偽者で、クロロとのデートという名の死合がお望みだったらしい。
しかし、クラピカの念によって、クロロは念を封じられたため、戦意喪失して帰っていった。
・・・だせぇー。
いや、いっそ惨めだ。
(ヒソカよ、君のそのショック顔、忘れない・・・!!)
それを上空の飛行船から見届けた後、俺は意を決してクラピカに向かい合った。
俺も、いつまでも、うじうじしてられねぇし。
『いいか、何があっても、大切なものを見失うんじゃぁないぞ』
わかってるよ、じぃちゃん。
俺よ、強くあれ。
「おし!これから俺と濃い会話すんぞ!」
俺のいやに明るく作った声が、灰色の空間に変に響いた。
全員を連れてソファのある一室に向かった。
クラピカと向かい合って座る。
クラピカの後ろにはゴンとキルアが立ち、俺の後ろにはパクが立った。
残りの一人掛けのソファに俺から見て左にレオリオ、右に俺の知らない小柄な人が座る。
「・・・・えーっと、まずは初めまして、です。クラピカがお世話になってるみたいで」
「えっ!?あ・・・えぇと、私はセンリツよ」
「・・・いいお名前ですね」
右に座ったセンリツさんにとりあえず挨拶をする。女性に礼儀をつくすのは、まぁ男の嗜みというか。
「さて!」
俺が仕切ると、クラピカの肩がビクリと跳ねた。
「まずゴン、キルア」
ぎろりと睨むと、2人は驚いたように目を見開いた。
「お前ら、俺たち関係ないとか思ってんじゃねぇだろうな。聞けば昨日俺と別れた後、旅団にとっ捕まったらしいじゃねぇか」
ギクリとして半歩後退する2人。
俺は知っている。
ノブナガの機嫌が悪かったのは2人にまんまと逃げられてからであることを!!
「お前等、俺が止めると思って言わなかったんだろ?」
「い、いやホラ、仕事あるって言ってたし」
「・・・・いーや、自分たちでも無謀なのわかってたから、言わなかったんだな。そういうのは俺に勝てるくらい強くなってからにしやがれ」
「「・・・・・・・ごめんなさい」」
「あとでお前等2人ゲンコな」
「「えぇ〜」」
「え〜じゃない!!なんならイルミ呼ぶぞキルア」
「うわっマジ勘弁!!」
「・・・そんでクラピカ!!!」
ガバッと立ち上がってビシィっと指をさす。
未だクラピカは俺を見ない。あからさまに拒絶されている。
泣くな俺。
「・・・・・っしけた面してんじゃねぇよ」
えいやっ!とクラピカの頬っぺたを両側からつまんで伸ばしてやる。
八つ当たりくらいさせろ。
「ハハハハハハ!!よく伸びるな〜!!すっげぇ間抜け面!!」
「なっ!!」
俺の言葉にクラピカがやっと顔を上げて、そんでもって怒ったような顔をした。
「・・・・よし!」
ソレを確認すると、俺は満足気に笑ってクラピカのほっぺを離した。クラピカは俺の顔を唖然とした顔で見つめて固まった。
後ろでパクがふふっと笑いを漏らすのが聞こえた。
「いいか?俺を除けもんにした罪は重いぞ!?仮にも俺が一番お兄さんなのお忘れデスカー?」
「「「「あ」」」」
「あ。じゃねぇぞコンチクショウ」
俺は不貞腐れたようにソファへ沈んだ。
「言っちゃ悪いが、今のトコ、お前等の誰よりも俺が強い」
過信ではなく確信。4人束になってかかってこられても勝てる自信がある。
「俺、結構傷付いてんだぞ。そんなに信用ねぇか?」
「・・・・・・・違う」
クラピカが静かに否定した。
「・・・なんとなく、君をを巻き込んではいけないと思っていた。こういうものに」
「なら、なんでゴンたちは巻き込んだんだ」
「・・・・・」
+++++++Sideクラピカ
「・・・俺たちが、無理に手伝わせてっていったんだ」
黙ってしまった私に、ゴンが弁解を述べた。
「・・・・・クラピカ。この復讐ってのは仲間殺されて、悲しくて許せないからじゃねぇのか?」
「・・・・そうだ」
それ以外なんだというのだ。
「なら、なんでだよ」
「なぜ・・・とは?」
彼の質問に、何故か心臓が跳ねた。私はどこかでその質問の意図に気付いていたのかも知れない。
「・・・ゴンたち”仲間”より復讐が大事なのか、お前は」
ハッとした。
「どうしてゴンたちを危険にさらした?どうして俺に助けを求めなかった?」
ゴンたちが力不足なのは目に見えて分かるだろうと、彼は続けた。
「・・・まぁ助け求められたところで、俺は一発ぶん殴って目ぇ覚ませこの野郎としか言わねぇだろうけど」
私は言葉が出なかった。
私は・・・私は・・・・・・・・・。
「クラピカ、いつまでソコで止まってる気だよ」
頭を金槌に殴られたような気分とは、きっとこの事だろう。
「止まっている?私が・・・」
「あぁ俺にはそう見えるね!過去にこだわって今の大事なもん見失ってりゃ世話ねぇよ」
今の大事なもの。
私は良い仲間を持った。
なんということだ。私はあの時・・・・・。
復讐のために都合のいい、とか、そういう意味で”良い仲間”と思ったわけではないというのに。
失いたくないと思ったのに。
すっかり、蜘蛛に気を取られて、分かっているようで分かっていなかった。
「それにさ、クラピカ。お前、なんであんな交換条件だしたわけ?一番蜘蛛の非道さを知っていたのはお前なのに」
彼は続けた。
私は矛盾を次々と指摘されて、再び眩暈を起こした。
「どっかで期待してたんじゃねぇか?蜘蛛も、仲間を大事に思う気持ちがあるんじゃねぇかって。
無かったら、ただの非道な連中だったら、この交渉は成立しない。それがわからないお前じゃねぇだろ」
ハッとしたように、センリツとレオリオが彼を見た。
おそらく、2人とも、どこかでソレを感じていたのだろう。もしかしたら、後ろの2人もハッとした顔をしているのかもしれない。
の後ろで、パクノダはただそっと瞳を閉じた。
パクノダは蜘蛛の掟を破ってここへやって来た。
そしてココへ来れたという事は、強行突破以外、他の団員が了承したという事になる。
「・・・・・・私は・・・・・・」
+++++++++Sideセンリツ
「クラピカ、お前一回ゴンと脳味噌交換してみろ。んでプライドだのなんだの全部捨てて今を見てみ?きっと、すっげぇすっきりはっきりして見えるはずだぜ?」
君は静かに、穏やかにそう言った。
彼の心音は穏やかなようでいて、緊張していて、悲しみも怒りも感じられた。
複雑で、それでもどこか温かい音。
真っ直ぐにクラピカを射抜く彼の視線はとても力があって、ずばずばと遠慮なく矛盾を突きつける。
クラピカは、少しずつ今理解をしていっているみたい。とても動揺しているけれど。
私はクラピカの深い悲しみと憎悪に、何も言えずにただそれで気が済むならと、ただ手を貸すことしか出来なかった。
でも、彼は、彼の意見を貫いたまま、大事なものを見失わない。
私は、クラピカといるうちに、彼の悲しみにあてられて、一緒に止まっていただけなのかも知れないわ。
・・・いいえ、きっとそうだったのよ。
でも彼は、クラピカに自分の立っている場所を教えて上げられる。
そして、そのあと、手を引いて、一歩踏み出す手助けを・・・・。
++++++++++
「いいか?俺にゃぁお前の憎しみだの悲しみだの、この際どうでもいいんだよ」
「はぁっ?!」
俺が吹っ切れたように言うと、レオリオが間抜けな声を上げた。
「俺からすれば、クロロもクラピカもあんぽんたんだ」
「あ・・・・あんぽんたん・・・」
キルアが唖然としたように復唱する。
「気付けなかった俺もあんぽんたんだが、俺以上のあんぽんたんだお前等」
だってそうだろ。なんでこんなときばっか俺に気ぃ遣うわけさ。皆、意外と普段自己中のくせに。
「・・・クラピカの復讐云々は俺から言わせりゃくだらない」
クラピカの瞳が揺れる。
「お前の憎しみだの悲しみだのはこの際どうでもいいがな、俺はゴンたちや、お前が傷つくのも大いに構うぞ。
自己中な意見なのは百も承知。でも、俺はお前の復讐より、お前が、お前等が 大事。」
20060910