殿下の連れてきた双黒の少年、それはまさに。
番外 その男、絶滅希少種
俺、グリエ・ヨザック。
フォンヴォルテール卿グウェンダル閣下の元、普段は主に諜報員をやってる。
各国を飛び回ったり、戦場にでることの多い俺は、久々に仕事を終え、閣下に報告の為に血盟城へ参上した。いやぁ〜驚いたね。
閣下がその日国境付近の警備の視察から帰ってくると聞いていた俺は、まぁお出迎えに行きましたよ。
厩は兵舎とも近いから、俺としてはそのほうがちゃっちゃと終って帰れて楽だな〜と。
そしたら、殿下がいつも以上に険しい顔して、何か抱えてる。
しかもソレが双黒のお方だとは。閣下も隅に置けない。閣下は早々に人払いすると、情報の漏れるのを防ぎ、こっそり俺を連れて城内に入った。
初めて見た感想は、「ひでぇ」の一言だった。
その姿のなんと痛々しい事。
アザや切り傷だらけで、やつれて顔色も悪かった。わき腹の傷が深いらしく服から血がにじんでいた。
髪もところどころザンバラで、綺麗な髪なのに勿体無いと思った。「人間どもの仕業だろう、国境に程近い川の近くで倒れていた」
閣下は騒ぎを大きくしないため、内内にことを運んだ。双黒がいると知れたら、シュトッフェルが利用しねぇわけがねぇ。
ギーゼラを呼び、傷の手当てをした。
そしたらあ〜ら不思議、治癒魔術が効くのなんの。ギーゼラが驚くほど。
おそらく魔力があるんだろうと閣下が言ってたが、あれはすごい。
傷の手当てをして汚れを落としてやると、儚げな美少年のいっちょあがりってね。
顔色が悪くて、髪もザンバラだけど、その造作がすばらしいってのは俺なんかでもわかる。
それから俺はその御仁の護衛兼監視を、光栄にも任されちゃったわけ。
けどコレがとんだ焦らし上手で、かれこれ眠りつづけて3日目の朝、やっと目が覚めたらしい。
扉を開けるとぼぅっと天蓋を見つめているのを見つけた。「・・・・お気づきですかぁ?」
俺が声を掛けると怯えたようにビクリとそいつの肩が跳ねて、焦ったように起き上がった。
あぁ〜そんなに急に動くと・・・。
「・・・・・っ!」
案の定眩暈がしたんだと思うが、そのまま前屈みに倒れてしまった。「あ〜ぁ、急に起き上がるからですよ〜・・・」
駆け寄って起き上がるのを助けてやった。
眩暈の所為で朦朧とするのか、俺に促されるまま枕に背をうずめた。
ぼんやり見上げてくる瞳は、黒。そりゃもう吸い込まれるんじゃないかってくらいの。
その瞳に俺が映って見える。不思議な感じだぁねぇ。
けど、幾ら高貴な双黒だからって、何者なのかは未だ分からない。
とりあえず営業スマイル。
これくらいの年のぼっちゃんは、大概これでもって警戒をといてくれるのが多い。
常に疑ってかかれ。相手を見極めろ。これ初対面での信条。けど、この少年は警戒を強めた。どうも俺の本性がバレてるらしい。カタカタと震え始めてしまってかなり弱った。
俺だって小さいころはけっこう迫害された口だが、この少年は俺なんかより酷い目にあったのかもしれない。
俺には隊長がいた。一人じゃなかった。
こいつは、一人だったのかもしれない。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ〜〜〜〜」
俺って大人気ない。
そもそも俺たちに害になる以前の問題で、あんな満身創痍でなにができるってんだよ。
こんなちっこい丸腰の子供に。
・・・職業病かね、コレも。とりあえず、俺は親睦を深めようと名前を名乗った。
するとそいつは恐る恐る俺を見た。
・・・・兎みてぇ。
そう思ったら自然と笑みが浮かんだ。それに安心したのか、そいつの震えが弱まった。内心ホッとしながら、もう一度名前を繰り返す。なんのこと?って顔に書いてあったから俺の顔を指してもう一度ゆっくり発音する。
すると、あれ?なにこの動物ってかんじ。
うるうるお目目で小首かしげなから「よざっく?」って掠れて途切れ途切れになりながらも呼んでくれやがりましたよ!!俺はそれに大いに満足して、そのかすれ声に苦笑して水を渡してやった。
手が多少萎えているだろうから、手伝ってやって飲ませる。
水を飲んだら落ち着いたのか、さっきより顔色も、表情も良くなった。
もう一度呼んで欲しくて、瞳を覗き込んで催促すると、今度はちゃんと呼んでくれた。少し舌っ足らずだったけど、可愛いから、グリ江許しちゃう!
。それがこの少年の名前らしい。名前を尋ねればそう返ってきた。
不思議な響きだ。何度か舌で転がして発音する。確認の為に「 ?」と首をかしげると、
呼び捨てなんて気にしていないらしく、自分をゆっくり指差して「・・・ 」と繰り返してくれた。
何だか、こう・・・グリグリしちゃいたいわこの子。
俺にはすっかり警戒を解いてくれたらしい は、無礼にも頭を撫でる俺を叱るでもなく、少しすると俯いて泣き始めてしまった。
これには俺も弱った。
ぽろぽろ、声を殺してないている姿がいじらしいじゃあないですか。
その内ごしごし目を拭い出したけど、堰を切っちゃったらしく止まらないようだった。
・・・・・・今まで辛かったんだろう。
――――あ〜〜〜っもうっ!!
俺はがりがり頭を掻くと、一応「失礼しますよ」と断ってからその小さな体を抱きしめた。
そしたらさらに泣いちゃって困ったけど。
しばらくすると も落ち着いてきて、俺もほっとしていた時、ナイスタイミングで殿下が現れた。
「目が覚めたのか・・・?」
「えぇ先刻。なんだか安心したらしくて泣かれちゃって〜、グリ江ってば罪な女♪」
「下らん事をいうな」あら冷たい。
じつは毎日ちょくちょく仕事の合間をぬって様子を身に来ていた殿下。
さすが、小さくて可愛い物好き。まぁ、双黒っていうのもあっただろうけど。は突然の殿下のお出ましに、訳がわからないらしく首をかしげてて、まさに閣下の好きな小動物ってかんじ。
閣下は の顎に指をかけるとクィっと上を向かせた。なんか・・・あれだわね、この図はいけないかんじですよ閣下。
も で泣き止んだばっかりのうるうるお目目で見つめ返しちゃうしね。
美形は絵になるこって。「・・・やはり双黒か」
なんでも閣下と目が合ってすぐに気を失っちゃったらしい ちゃん。
閣下も気に掛けていたようだけど、やっぱり双黒だって確かめられちゃったことで、閣下は眉間に皺を寄せた。
「・・・ヨザック、このことは絶対に口外するな。いいな?」
「もちろんですとも閣下。こ〜んな可愛い子、シュトッフェルなんかに見せてやるもんですか」
ね〜閣下〜と首をかしげると見事に無視されちゃいました。相変わらずつれないんだからぁ。
そんなやり取りをしていると、ちょいっと が閣下の服の裾を引っ張った。
上目遣いで見上げるお顔の可愛いの何の!もう何でも言って!!なんも聞いちゃうvvみたいな。
けど、 の口から出てきたのは、「・・・Excuse me? Can you speak English? 」
――俺たちの知らない言語だった。
「・・・・・・・閣下」
「・・・あぁ、言葉がわからないらしいな」
「隊長なら、知ってるかも知れませんよ。たまに口ずさんでる歌の歌詞に似てますから」
「そうか・・・では至急コンラートを呼んで来い」
不安そうに此方をみている の頭を一撫ですると、俺はさっそく隊長のもとへ急いだ。
運良く、意外と早く隊長を見つけられた。コレ幸いと有無を言わせずついてきてもらった。
行きながら小声で概ねを話すと、隊長は黙って頷いた。
「・・・・・・心配するな」
扉をそっと開けると、グウェンダル閣下のそんな台詞が聞こえてきた。
何々?!いい感じ〜?とか思ったけど、はキョトンとしてて分かっていないらしかった。
まぁ、あんなに眉間にしわよせて頭撫でられれば誰だってキョトンとするわな。それからは と隊長のおしゃべり会突入ですよ。
なんとか隊長のわかる言葉だったらしく、会話が成立してた。
俺や殿下にはさっぱりわからないから待機するしかねぇんだけど。一息つくと、隊長がはしょって概ね話してくれた。
どうも、は次期魔王陛下のお住まいの世界からこちらに来てしまったらしい。
だからここのことや俺らのことを大まかに説明したところ、混乱しているものの、受け入れようとしていると。
これからどうするかについては、このままグウェンダル殿下の庇護下に置いた方が良いだろうという話でまとまった。
隊長は色々と出かけることが多いが、殿下はこのあとヴォルテール城に戻って執務のご予定だ。
こっそり血盟城からヴォルテール城にかくまう事はできるだろうと。
そんでもって俺は引き続き護衛を任された。しばらくは隊長も様子を見に来てくれるらしい。
そんな感じに話がまとまると、ふいに視線を感じたもんで振り返ると、 がぼぅっとこちらを見ていた。
名前を呼べば慌てたように首を横に振る。
よく分からなかったが、まぁ”なんでもない”とかそこらだろうなぁと思いながら無意識にの頭を撫でた。
すると の顔に赤みが刺して、きゅっと上掛けを掴むと小さくまとまった。
布団を口元まで引っ張って、恥ずかしそうにこっちを見上げた。今まで子供は好きじゃないと思ってたけど、撤回する!
何このちんまい可愛い生き物!!
「・・・・・こりゃぁ外に置いといたら間違いなく持ってかれますねぇ」
「・・・・・困ったなぁ」
「・・・・・・」
隊長は苦笑して頬をぽりぽりかいた。殿下は沈黙してたけど、きっと内心ときめいてるに違いない。
それから気を取り直した隊長の説得で を俺たちで守る事になった。
それの決定する間際、が、ちょっとだけ笑った。
本当にちょっとだけど、美人ってのは笑うとさらに美人ってのは法則なんかね。
まさに花が咲くような笑顔だったさ。
ま。そんな経緯で、俺はこの天然記念物なみのピュアな子をできる限りを持って守ろうと決めた訳です。
20070108