『落ち着いて聞いて下さい』
そう前置きされ、語られたのは衝撃の真実。
前へ進む術
「・・・・・・・・・・」
俺は言葉もなく俯いた。
ちょっと、ちょっとだけ待ってくれ。
行き成りの情報量に頭がパンクしそうだった。
まず、こげ茶の髪の爽やかな青年は自己紹介から始めた。彼はウェラー卿コンラートさんというらしい。
それから夕日色の髪のヨザックさん。フルネームはグリエ・ヨザックさん。
灰色の髪の偉そうな人は、フォンヴォルテール卿グウェンダルさん。
ちなみにウェラー卿とフォンヴォルテール卿は兄弟で、さらに下に弟がいるらしい。それから衝撃の事実。
「ここは地球ではない」らしい。まずこの時点でかなり驚いた。
さらに彼らは人間ではなく”魔族”というらしい。人間よりも長寿で、今ここにいる3人とも100年は軽く生きているらしい。
ただ、ウェラー卿とヨザックさんは人間とのハーフということだ。
そしてここは眞魔国。この地を治める王はなんと「魔王」
今の魔王陛下は女性で、ウェラー卿とフォンヴォルテール卿の母親。つまり二人は王子様。
そんなファンタジーな国には魔術とかいうものもあるらしく、この3人のうちフォンヴォルテール卿は使えるという。
それから俺の事。
この世界では黒髪黒目という地球人口的に結構な割合を占めるこの色彩が、非常に珍しいそうだ。
「双黒」という呼び名まである。
なんでも魔族のみに現れる色だそうで、人間からは悪魔だと迫害され、魔族には高貴だと崇められるらしい。
これで、俺が何故あんなに酷い目にあったかわかった。
髪や血を持っていったのは、双黒は不老不死の妙薬と信じている者がいるから、という話だった。つくづく、おかしな世界。
ただ、薄々勘付いていなかったと言えば嘘だから、そこまで取り乱したりはしなかった。
おかしな事が多すぎたし、これが夢でないことはいやというほど分かっている。あんなに痛い思いをしたんだから。
『・・・・・・・・・ ?大丈夫?』
ウェラー卿が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。それに気付いて慌てて顔を上げた。
『大丈夫です。すこし、混乱して』
『・・・・信じて、もらえたのかな』
『・・・・信じたくは・・・ないです。けど、それを受け入れれば、今までの不可解な出来事全部、説明がつきますから・・・』今はまだ混乱してる、全部受け入れられたわけじゃないけど、ちょっとずつ受け入れようと思う。
『・・・・・君は強い子だね』
ふんわりと笑ったウェラー卿は俺の頭を優しく撫でた。
『ちょっと他のふたりと話すから、待ってて』
一息ついたところで、他の3人が話し合いを始めた。
やっぱり何を言っているのかさっぱりわからない。
双黒とやらが、とても敬われるというのは分かったけど。
...ウェラー卿がこんな年端もいかない、しかも素性の知れない俺に礼をつくし、敬語を使うからだ。もちろん、居心地が悪いからやめてと頼み込んだら渋々止めてくれたけれど。
異世界で、どうしてウェラー卿が英語を話しているかというと、彼は10年ほど前に地球に言った事があるんだって。
ぼんやりそんなことを考えつつ3人の話す様子を見ていた。
よくよく見れば、3人とも日本ではお目にかかれない程綺麗な顔立ちをしていた。
そして背が高く体格がいい。
同じ男として憧れるには十分だ。俺は日本人特有の顔をしている。彫りなんて文字は俺の顔に必要ないんじゃないかってくらい。
おまけに母の遺伝子なのか背が低い。成長期はまだあると信じたいけれど、ここ最近うんともすんとも言わない。
父さんは「可愛いんだから は大きくならなくって良いんだぞ〜」と真面目な顔して言ってたけれど、もう可愛いと言われる時期は過ぎたと思う。
・・・たしかにすこし童顔で、アメリカにいた時は年下にしか見られたことが無いけど。しかも俺はあまり大きくない身長に加えて華奢だ。だから目の前の3人がとっても羨ましい。
ヨザックさんの服は袖が無くて、素晴らしいくらいの上腕二等筋が顔をのぞかせてる。
あそこまで欲しいとは言わないから、力こぶが少し自慢できるくらい欲しいなぁ。とりあえずここが安全で、この人たちが悪い人じゃないのは分かった。
だから自分もこんな下らないこと考えられる余裕も出てきたんだろう。「・・・・・・ ?」
ぼんやりヨザックさんの上腕二等筋を眺めていたら、視線に気づいたらしいヨザックさんに首を傾げられてしまった。
俺は首をふってなんでもないって体現してみた。
ヨザックさんは不思議そうな顔をしてたけど、ちょっと微笑んで俺の頭を撫でた。
なんだか、ここへきて皆に頭を撫でられている気がする。
嬉しいけど、すこし照れくさかった。
体育館座り風に足を折って、それで浮いた分の掛け布団を引っ張って緩む口元を隠した。
すると3人が驚いたような困ったような顔をして何か言ったけど、やっぱり意味はよくわからない。
『・・・・・・・えぇ〜と、 。君はこれからどうしたい?』
『・・・どうすることが、一番良いですか?』
『とりあえず、俺たちには君を受け入れる体制だよ。眞魔国にいたほうが安全だし、城の警備は万全だ』
でもそれでは迷惑が掛かってしまう。
俺は川縁に倒れていたのをフォンヴォルテール卿に発見され保護されて、治療してもらった上、三日も眠っていたらしい。
『・・・・・言っておくけれど、 が邪魔とか迷惑なんてことはないからね?』
思っていたことを言い当てられて俺は驚いて顔を上げた。
『日本人は奥ゆかしいと聞いたからね。遠慮はいらないよ。それに此処に居てくれれば俺たちも安心だしね』
『安心・・・ですか?』
『そうだよ。双黒で、なにも知らないまっさらな君を外になんか放って出したら、気が気じゃないからね』
『・・・・でも、なんでそんな、俺みたいな素性のしれないヤツに・・・』
『素性はどうあれ、君が悪い子でないのは十分分かったよ。
それに双黒っていうのは危ないんだ。たとえ魔族の国でも君を利用しようとする輩はたくさんいると思う。
どうかな?俺たちに頼ってくれないか?』
やっぱり、ここはおかしな世界だと思う。
優しい瞳で覗き込んでくるウェラー卿から視線を外して、こちらを伺う二人に目を向けた。
ヨザックさんは面白そうに微笑んでいて、フォンヴォルテール卿は静かにこっちを見ている。
やっぱり、怖くは無かった。「・・・・・あ」
――――分かった。
この人、一緒なんだ。
毛並みと瞳の色が。
ミーア
愛しい俺の飼い猫と。
そうだと分かると可笑しかった。この人に覚えた安心感はソレだったのかと。
「・・・ふふっ」
『・・・・ ?』
『・・・ウェラー卿』
『はい?』
『・・・・・・不束者ですが、宜しく、お願い致します』俺は深々と丁寧にお辞儀した。目の前の3人に感謝と敬意をはらって。
心は決まった。
これも何かの縁なのかもしれない。
俺は目の前に示された道を進むとしましょう。
20070107