目が覚めると見知らぬ天井・・・というか天蓋で。
は、なにやら立派な大きな天蓋つきのベットに横たわっていた。

 

 

変わり行く

 

 

「・・・・・・?」

ハッキリしない意識のまま、ぼんやりと緩慢な動作であたりを見回す。
洋風なつくりの部屋だった。
石造りで赤い絨毯が敷かれ、そこかしこに置かれている家具も、ヨーロッパ系の立派なものだった。暖炉まである。
ベットの直ぐ脇には窓があり、そこから燦々と太陽の光が降り注いでいる。

清々しい陽気。おそらく朝であろう。
は、そこまで認識してから、そういえばどうしてここに?と今までの経緯を思い出そうとした。
何者か、おそらく男性に肩をつかまれ、何か言われた所までしか覚えていない。

(・・・・・・・・あぁ、そういえばミーアの声が・・・)

ぼう・・・っと天蓋を見つめながらそこまで考えた。
自分は、これからどうなるのだろう。
どうして、あんな事をされたのか。
反日主義国家なのだろうか?日本はヨーロッパにまで嫌われていたのか?

ぐるぐると思考が渦巻く。


「・・・∀!●※§?」

 

突然ドアが開き、日本では中々見られないような体つきの男が入ってきた。
やはり言っている事はわからない。
はビクリと反応して急いで体を起こした

「・・・・・・っ!」

しかし、いきなり動いたのが拙かったのか、ぐらりと眩暈がしてそのまま前へ倒れた。

「§〜、●×◎▲〜・・・」

男は急いで のもとへ駆け寄ると、そっと をベットに横たえた。
にじむ視界の端に、鮮やかな夕日色が見えた。
視界がクリアになると、その男の容貌が明らかになる。
鮮やかなオレンジの髪は少々癖毛で襟足が長い。つり気味の瞳は今は笑みの形に細められている。
微笑んではいるが、瞳は油断なく を観察しているような気がして、なんだか緊張する。

は訳がわからず目を泳がせた。

―――怖い。

そう思った途端、小刻みに体が震え始めた。
それを押さえ込もうと、小さくうずくまるように頭を抱えた。

 

コワイ、コワイ、コワイ。

 

自分はこららどうなるのだろうか。
また、殴られる?髪をむしられる?今度は殺されてしまったり... 

 

ぽすっ

頭への温かな感触が、マイナスに傾く思考を止めてくれた。
目の前の男が、そっと頭を撫でたのだ。

 

「・・・ヨザック」

そっと手を離すと、男は溜息をついてそういった。
「ヨザック」
もう一度繰り返して、今度は自分の顔を指す。それから又「ヨザック」と言う。名前だろうか。
そして微笑む。今度は温かい感じを受けた、小さい子供に向けるような笑み。少し緊張が解けた。

「・・・・よ、ざ・・・く?」

久しぶりに出した声は酷くしゃがれていて自分でも驚いた。
男ーおそらくヨザックーは満足そうに微笑むと、ベットサイドにあった水差しからコップへ水を注ぎ、そっと を起こすと渡してくれた。
背中には必要ないだろうという数の大きな枕があてられていて楽だ。
ゆっくりと、ヨザックに手伝われながら水を飲んだ。
よく分からないが、自分は先ほどの村と違い、それなりに扱ってくれるような気がしてほっとした。
それに、久しぶりに、人の笑顔を見た気がする。 

「ヨザック」
男はもう一度そう言うと、悪戯っぽく の瞳を覗き込んだ。
言え、ということだろうか。 

「・・・・・・よざっく」

小さく、ぽつりと言うと、くしゃりと頭をなでられた。
ついで男、ヨザックは を指差した。
ピッと鼻のまえに出された人差し指に、 は面食らう。

「◎×▲●§?」

ヨザックはにっこりと笑って首を傾げた。
言葉は相変わらずわからないが、名前を聞いているんだろうということが分かる。

「・・・

小さくそう言うと、ヨザックは何度かその名前を口で転がしてから「 ?」と確認してきた。
なので、自分を指差して「 」と再度繰り返すと、ヨザックは満足げに「 」といって頭を撫でた。

(・・・・父さん)

自分を撫でる大きな手に、一瞬父親のそれが被って、 は俯いた。
ぽろぽろと涙が零れる。
ここへ来て初めての涙。
優し気な態度や温かなぬくもりは、今まで我慢していた不安なんかが爆発するのに十分だった。
一生懸命拭うが、一度あふれ出た涙は早々止まるものではなかった。

一方ヨザックは突然泣き出した に少しばかり慌てた。
困ったようにがりがり頭を掻くと、何事か呟いてから、そっと を抱きしめた。
父とは全く違うたくましい体。それでも何故か安心して、 はその胸に縋って泣いてしまった。

 

 

――パタン

しばらくそうしていると、ドアの閉まる音がして はぴくりと反応した。
「●×§∀※・・・?」
どこかで聞き覚えのある声だった。

そっとヨザックから離れて、袖で涙を拭って振り返ると、すらっと背の高い眉間に皺を寄せた男がこちらを伺っていた。
ベットサイドまでくると、ヨザックと何やら短く会話する。
背の高い男は、濃い灰色の髪を緩く束ね、緑の軍服に似た服を着ていた。
ヨザックは機能的且つ素朴ななりをしている。それに比べかなり高級感漂う出で立ちだ。

(・・・・偉い人か何かかな?)

は訳がわからず首を傾げるだけだ。

「※●煤ァ§・・・」

男は振り返ると、すっと人差し指での顎を持ち上げてなにやら呟く。
はどうしていいか分からず、とりあえずじっと男を見つめ返した。
なんとなく、怖くはなかった。ヨザックが笑っていたからかもしれない。
しばらくそうしていると、男は の顎から手を離し、ヨザックに向かい何か言っている。

 

は、アメリカに5年、イギリスに2年居たことが在る。
父の仕事の都合で、海外での生活は長い。そのため英語は話すことが出来る。
目の前で離している二人の言語は、どうも理解できない。
ならば、世界の共通語、英語ならば分かってくれるかもしれないと思い当たり、口を開く。
なにより、目の前の男は教養がなっていそうだった。

「・・・Excuse me? Can you speak English?(すみません、英語は話せますか)

勇気を出して、偉そうな軍服の男の裾を引っ張って、会話を試みる。
が、男は一層眉間の皺を深くして、今度は顎を押さえて考え込み始めた。
その男にヨザックが何事か話し掛け、それに男が頷くと少しの会話のあと、ヨザックは の頭を一撫でして出て行ってしまった。

(・・・・・放置?というか、この人と二人きり?)

はっきり言ってかなり気まずい。
男は眉間に皺を寄せて、ベットサイドの椅子に腰掛けて を観察している、というか を見つめながら何か考えている。
としては居心地が悪い。じっと布団の上の自分の手を見つめる。

(・・・・怪我、治ってる)

初めてそのことに気がついて、それではどれくらい眠っていたのかと不安になった。迷惑を掛けたに違いない。

 

「・・・・・・はぁ」

男が大きく溜息をついたのに、びくりと肩を振るわせる。
そんな様子に、男は眉間の皺を深めると、その大きな手を へと伸ばした。
何をされるのかと、ぎゅっと目をつぶって構えるが、意外にも、その手は不器用に の頭を撫でた。
驚きに が目を見張って男をみると、眉間に皺を寄せたまま何か言った。

(・・・?)

 

『心配をするな、と言ったんですよ』

 

が首をかしげていると、ドアの方向から又も違う男の声がして振り返った。
しかも、男は流暢に英語を話していた。
は驚いてそのまま固まってしまった。

『・・・俺の言ってる事、わかりませんか?』

こげ茶色の短髪の、こちらも軍服らしきものを来た男が困ったような笑みを浮かべて の顔を覗き込んだ。

『わ、わかります!』
慌てて返すと、その男はホッとしたように微笑んだ。
(保父さんとか・・・似合いそう)
ぼんやり、 はそんなことを思った。

その男の後ろからヨザックもやってきて、なにやら楽しそうに何事かを言った。
それにこげ茶の髪をした男が苦笑して、灰色の髪をした男が溜息をついた。
そのあと3人が少し話し合うと、こげ茶の髪をした男が を振り返ってこう言った。

 

『えぇと、まずは、パラレルワールドって知ってますか?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

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20070107