只今、ジンさんの息子さんがボコられております。

俺の目の前で、

3時間ほど。

 

 

 

傍観の意義 

 

 

 

最終試験は、1勝で合格。武器あり反則なし。相手に「まいった」と言わせれば勝ち。

ただし、相手を殺したら失格、という変わった決闘だった。

 

 

「腕を折る」

 

 

ハンゾーというスキンヘッドの男が冷たく言い放つ。

いくら拷問しても一向に「まいった」と言わないゴン痺れを切らしたようだった。

「本気だぞ。言っちまえ!!」

しかし、ゴンは当然のごとく言い放った。

 

「・・・・・・いやだ!!」

 

 

ボキッ

 

 

鈍い音と、ゴンの悲鳴。

「・・・・・マジで折りやがった」

ポックルとか言う人が多少青ざめて言った。

 

「さぁ、これで左腕は使い物にならねェ」

 

先ほど、一度キレて、「ゴンへの手出し加勢はゴンの失格になる」と試験官に止められたレオリオの額には、血管が見事に浮き出ている。

 

「クラピカ、止めるなよ」

「・・・・」

「あの野郎がこれ以上何かしやがったら、ゴンには悪いが抑えきれねェ」

目が血走り、必死に怒りを抑えている。

・・・・・お前、いいヤツだよ。レオリオ。

「・・・止める?私がか?大丈夫だ、おそらくそれはない」

・・・クラピカも最早怒りを抑えるのが限界らしい。

2人とも本当にいいやつだ。でも・・・

 

「・・・・・俺は止めるぜ?」

それは、間違ってる。ダメだ。

 

「何故だ!?」

「おめぇゴンがあんなにされて腹ぁたたねぇのかよ!!」

2人が憤る。

俺は座ったまま、静かに告げる。

「ゴンは割って入って欲しいなんて思ってない。言ってない。お前ら、ゴンを不合格にさせる気か?」

「・・・・・っ!しかし!!」

「それに、悪いのはあのハンゾーって人じゃない」

「「?!」」

 

「こんな決闘仕組んだネテロじぃちゃんが悪い

ジトリとじぃちゃんをねめつければ、じぃちゃんは冷や汗をながして視線をそらす。

逃げやがったな・・・?

 

「あのハンゾーは悪いやつじゃないさ。ゴンなら大丈夫だ」

「なんでそんなことが言える」

レオリオはまだ納得していないみたいだ。

「さっきからの拷問、後遺症になるようなのはまったく行われてない。それに・・・

 

ゴンは本物だぜ?

 

あの瞳は本物だ。

 

「安心しろ、お前らは全力で俺が止めてやる」

にっこりと言うと、2人は脱力した。

・・・・勝った。

にやりと俺は口端を上げた。

感情に流されちゃいけない。冷静さを欠いた方が負けだ。

 

 

その後、何故か逆立ちしながら、ハンゾーは自分が隠密集団の末裔で、18年間、肉体と技を極めてきたと話し出した。

・・・・おしゃべりな隠密がいたもんだな。

俺はちょっと感心した。

格闘に関して、ゴンがハンゾーに勝つ術はない。負けを認めろ、とハンゾーが言った時だった。

 

ドゴン

 

ゴンの蹴りが決まった。

 

 

べちゃ

 

 

ぶふっ・・・・・格好悪いな隠密集団の末裔よ。

着地音が間抜けだ!!

 

 

 

「って〜〜〜くそっ!痛みと長いおしゃべりで、頭は少し回復してきたぞ」

 

ゴンが元気よく立ち上がってそう言った。

 

 

「よっしゃァアアゴン!!行け!!けりまくれ!!殺せ!!殺すのだ!!」

「それじゃ負けだよレオリオ・・・」

「ぷっ・・・・・」

うきーっ、と大フィーバーなレオリオにクラピカの冷静な突っ込みが入る。

 

「18っていったらオレと6つ位しか違わないじゃん」

「・・・・」

まだのびてんのかよ忍。

「それにこの対決はどっちが強いかじゃない。最後に「まいった」って言うか、言わないかだもんね」

「・・・・・わざとけられてやったわけだが・・・・・」

起き上がったハンゾーがめっちゃ涙目で言う。

痛そう!痛そうだ!!やべぇ腹筋めっちゃぷるぷるしてる。笑い耐えるの大変過ぎる!

「うそつけ――――!!!」

「ナイス突っ込みレオリオ!!」

 

 

 

 

「わかってねーぜお前。オレは忠告してるんじゃない。命令してるんだぜ」

ハンゾーが鼻血をぬぐいながら、淡々とした調子を取り戻して言う。

「オレの命令はわかりにくかったか?もう少しわかりやすく言ってやろう」

ツツッと腕から隠刀を取り出しながら言う。

 

「脚を切り落とす。2度とつかないように。取り返しのつかない傷口を見ればお前もわかるだろう。

だが、その前に最後の頼みだ。「まいった」と言ってくれ」

 

忍の顔になったハンゾーが低く言い放つ。

 

 

 

「それは困る!!」

 

 

ゴンがそれはもう真剣な顔で言う。

 

『・・・・・・・・・・・・・』

 

一瞬にして会場が間抜けな静寂に包まれた。

 

「脚を切られちゃうのはいやだ!でも降参するのもいやだ!!だからもっと別のやり方で戦おう!」

 

ゴン炸裂――――!!!

 

「な・・・・っ てめ―――自分の立場わかってんのか?!」

ぶふー―ッハンゾーが頭から湯気だしてるよ!!レオリオの顔が芸術の域だよ!!!

 

「・・・・ぷっ・・・あははははははははははははははっ

俺が馬鹿笑い始めたのに続き、ヒソカやボドロ氏が笑い出した。

 

「勝手に進行すんじゃねーよなめてんのか!!その脚マジでたたっ切るぜコラ!!」

ハンゾーがキレる。

「・・・・・それでもオレは「まいった」とは言わない!」

ゴンがまっすぐに言い放つ。うん、それでこそゴンだ!!

「そしたら血がいっぱい出てオレは死んじゃうよ」

「む・・・」

「その場合失格するのはあっちのほうだよね?」

「あ・・・はい!」

試験管も呆気に取られていたようで、返事がやや遅れる。

「ほらね。それじゃお互い困るでしょ?だから考えようよ」

「〜〜〜〜〜っ」

 

あぁ〜笑いが止まらねぇ〜!!こりゃぁ腹筋割れるかな。

 

「もう大丈夫だ。完全にゴンのペースだよ。ハンゾーも、我々全部巻き込んでしまっている。全く・・・・」

クラピカが安心したように言う。レオリオも落ち着きを取りもどしたみたいだ。

 

 

ビュッ

 

 

「やっぱりお前はなんにもわかっちゃいねェ」

刀をゴンの額にぴたりと当ててハンゾーが言う。

取り戻された緊張感。

っても俺はそんなに緊張してねぇけど。

 

「死んだら次もくそもねーんだぜ。かたやオレはここでお前を死なしちまっても、来年またチャレンジすればいいだけの話だ!!お前とオレは対等じゃねーんだ!!」

ハンゾーは少し焦っているように見える。

ゴンは動かない。ハンゾーを見つめたまま。

「・・・・なぜだ。たった一言だぞ・・・?それで来年また挑戦すればいいじゃねーか

命よりも意地が大切だってのか!!そんなことでくたばって本当に満足か?!

ハンゾーが声を張り上げても、ゴンは動かない。

 

 

「親父に会いに行くんだ」

 

 

真っ直ぐ、ハンゾーを見つめて言うゴンの声が、不思議なくらいこの空間に響く。

「親父はハンターをしてる。今はすごく遠い所にいるけど、いつか会えると信じてる。でも。ここでもしオレがあきらめたら、一生会えない気がする。だから引かない」

「退かなきゃ・・・・死ぬんだぜ?」

 

・・・・・ホントそっくりだよ、ゴン。ジンさんに。

俺は懐かしいような、微笑ましいような気持ちでゴンを見つめる。

 

ゴンとしばらく睨み合ったあと、ハンゾーが刀を納めた。

「まいったオレの負けだ」

ゴンがビックリしてる。拍子抜けですって顔に書いてある。

「オレにはお前は殺せねェ。かといってお前に「まいった」と言わせる術も思い浮かばねェ。オレは負け上がりで次にかける」

ゆっくりハンゾーが背を向ける。

 

 

「そんなのずるい!!ちゃんと2人でどうやって勝負するか決めようよ!!」

 

 

「プッ・・・・っ」

サイコ―だゴン!!!

 

「言うと思ったぜ」

自嘲気味に笑ってハンゾーが続ける。

「バカかこの!!てめーは勝負しようがまいったなんて言わねーよ!!」

「だからってこんな風に勝っても全然うれしくないよ」

「じゃどーすんだよ」

「それをいっしょに考えよーよ!!」

 

「要するにだ。オレはもう負ける気満々だが、もう一度勝つつもりで真剣に勝負しろと、

そうの上でお前が気持ちよく勝てるような勝負方法をいっしょに考えろと、こーゆーことか?!」

 

「うん!!」

 

「アホかぁあ――――――!!!」

ハンゾーのアッパーがゴンの顎にクリーンヒットする。

 

「ぶっ・・・・・あははははははははははははは!!ナイスゴン!ナイスアッパー!!」

 

 

 

ゴン、ハンター試験合格。

 

 

 

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20051001