ズズッ・・・ビキビキビキッ
・・・・・痛い!!痛いよギタさんっ!!
兄弟
「久しぶりだね、キル」
イルミの相変わらず痛そうな顔の変形が終るとキルアの目がこれでもかってほど見開かれた。
「兄・・・貴!!」
キルアが驚愕の表情で、やっとというように言葉を紡いだ。
「や」
普通だなオイ。
ってか・・・
「兄弟!?」
「キルアの兄貴・・・?!」
レオリオは驚いてるけど、俺は違う。
キルアが誰に似てるか判明しました!そうだよ!プイって横向く仕草がそっくりだ!!
そっかキルア、イルミ兄弟か。美形な家系だなぁと俺は暢気な事を考えた。
「母さんとミルキを刺したんだって?」
へぇ、イルミは「母さん」派らしい。
「まぁね」
「母さん泣いてたよ」
「そりゃそうだろうな、息子にそんなひでー目にあわされちゃ」
淡々としたイルミの言葉にレオリオが律儀にも近所のおじさん風に相槌をいれる。
なんだか様になっているのが笑える。
「感激してた。”あの子が立派に成長してくれてうれしい”ってさ」
あ。レオリオこけた。
「”でもやっぱり、まだ外に出すのは心配だから”って、それとなく様子を見るように頼まれたんだけど、奇遇だね。まさかキルがハンターになりたいと思ってたなんてね。実はオレも次の仕事の関係上資格をとりたくてさ」
「別に・・・なりたかった訳じゃないよ。ただなんとなく受けてみただけさ」
「・・・そうか、安心したよ。心置きなく忠告できる。お前はハンターに向かないよ。
お前の天職は殺し屋なんだから。」
・・・・随分期待されてるなぁ〜キルア。可哀想なくらい。
きっと今のキルアにそれは重いんだろう。いつものキルアの飄々としたようすは最早まったく感じられない。
さっきからキルアは目の前のイルミにまとも視線を合わせることも出来てない。
「お前は熱を持たない闇人形だ。自身は何も欲しがらず何も望まない、陰を糧に動く。お前が唯一歓びを抱くのは人の死に触れたとき。お前は親父とオレにそう作られた」
ほほぅ、親父派ですか!俺は父さん派だ、・・・・って違う!
随分大事に育てられたらしいなキルア。すげぇ過保護だこと。
・・・・てかブラコンだろイルミ。
俺には、可愛い弟を懇切丁寧に傷つかないように、何者にも害されないようにするために大事に大事に閉じ込めてるように見える。
そして檻の中で、最高の教育と訓練を受けさせて、心配要らないまでに育て上げる。
「お前が何を求めてハンターになると?」
イルミが相変わらずな無表情でキルアを見下ろす。
「・・・確かに・・・ハンターにはなりたいと思ってるわけじゃない。だけど、オレにだって欲しいものくらいある」
「ないね」
「ある!今望んでることだってある!」
「ふーん。言ってごらん、何が望みか?」
小馬鹿にしたようにイルミが問う。
頑張れキルア!お兄ちゃんに負けるな〜!反抗期は思いっきり反抗しとけ。
優勢より劣勢側を応援したくなるのは人間の性だな。
イルミの気持ちもなんとなくわかる。でも俺はどっちかっていうとキルア肯定派だ。
「どうした?本当は望みなんてないんだろ?」
「違う!!・・・・・ゴンと・・・友達になりたい。もう人殺しなんてうんざりだ。普通に、ゴンと友達になって、普通に遊びたい」
・・・・・青春を謳歌したいわけだね少年よ!!俺は応援するね!(おやじ発言)
「無理だねお前に友達なんて出来っこないよ。お前は人というものを、”殺せるか殺せないか”でしか判断できない。そう教え込まれたからね。今のお前にはゴンがまぶしすぎて計り切れないでいるだけだ。友達になりたいわけじゃない」
「違う・・・」
「彼の側にいれば、いつかお前は彼を殺したくなる。殺せるか殺せないか試してみたくなる」
キルアの震える肩がとても小さく見えた。
段々と否定の声も小さくなる。きっとキルアに取って兄や父は絶対的存在。
逆らえない存在。上の者。
「なぜならお前は根っからの殺し屋だから」
それがゾルディック家の教育。
すげぇ教育。
たしかに、ライバルの存在ってどっちが強いのか試したくなる時はくるだろう。
ゾルディックでの勝ち負けは、きっと生きるか死ぬか。
”まいった”と言ったところで戦線離脱できるほど、温い世界ではないんだろう。
金を得るために、生きるために殺す世界。
殺し屋発言をきいたレオリオが前へでる。一度試験官に止められるが
わかっているとその場で足を止めて声を張り上げた。
「キルア!お前の兄貴か何か知らねーが言わせてもらうぜ。そいつはバカ野郎でクソ野郎だ聞く耳持つな!いつもの調子でさっさとぶっ飛ばして合格しちまえ!!ゴンと友達になりたいだと?寝ぼけんな!!
とっくにお前らダチ同士だろーがよ」
「!」
いいこと言うね!レオリオ!!ぃよ!男前!!・・・イルミは凄い言われようだけど。
「少なくともゴンはそう思ってるはずだぜ!!」
「俺もだけど?」
ちょっと出張ってみた。イルミの視線が俺を捕らえる。
「え?そうなの?」
「お「たりめーだバーカ」
・・・取られた。
「そうかまいったな。むこうはもう友達のつもりなのか。・・・・よし。ゴンを殺そう。・・・・も?」
コトリと首を傾げるイルミ。
くそぅ!可愛いぞこんちくしょー!!(壊)
「おう。てか、俺はイルミとも友達のつもりだけど?」
殺されるつもりはサラサラねぇが。速攻逃げに転じますが。
「・・・・オレ?」
「そう」
「ちょっ!何言ってんだよ!!」
レオリオが叱咤するけど、知らない(酷)俺はイルミもキルアも好きだし。
「・・・・・・・・・」
しばらく顎に手を当てて考えるイルミ。
「・・・・彼(ゴン)はどこにいるの?」
スルーしやがったな!!
「イルミ俺は?」
「・・・・・・は保留」
「何だそれ」
「ちょっと黙ってて?」
・・・・ハーイ。怖いでーす。
ツカツカとゴンを殺しに行こうとするイルミ。
「ちょ・・・待ってください。まだ試合は・・・」
トン
止めに入った試験官にイルミの針が軽い音を立てて数本刺さった。
うわー痛い!!顔が変形してる!!
「どこ?」
「・・・トナリの控え室二」
「どうも」
・・・・お礼言うんだ。
控え室に向かうイルミの前に試験官、レオリオ、クラピカ、ハンゾーが並んで阻む。
「まいったなぁ・・・・仕事の関係上オレは資格が必要なんだけどな。
ここで彼らを殺しちゃったら、オレが落ちてキルが自動的に合格しちゃうね。
あ。いけない。それはゴンを殺ってもいっしょか。そうだ!まず合格してからゴンを殺そう!」
棒読みな台詞。
・・・あぁ。わかった。
きっとイルミはゴンを殺さない。キルアにわざと聞こえるように独り言を言うのは、キルアを惑わすゴンから引き離すため。もしくは友達を作る覚悟を試すため。
これも教育の一環ってことか。
「・・・それなら、仮にここの全員を殺しても、オレの合格が取り消されることはないよね」
「うむ。ルール上は問題ない」
聞かれたネテロじぃちゃんはすんなり認める。
「・・・・聞いたかいキル」
くるりとキルアに向き直る。
・・・・ホラ、わざとだった。と俺は確信する。
「オレと戦って勝たないとゴンを助けられない。友達のためにオレと戦えるかい?
・・・できないね。なぜならお前は友達なんかより、今この場でオレを倒せるか倒せないかの方が大事だから」
・・・イルミの友達のハードル、高いなぁ。頑張れ俺。アタックあるのみ。
「そしてもうお前の中で答えは出ている。”オレの力では兄貴を倒せない”」
イルミの言うことはどれも正論。・・・悔しいくらい。
実際、経験と肉体、技術面で、キルアはまだイルミに劣るんだろう。
事実、ギタラクルがイルミと分かった瞬間から、キルアはずっと逃げ腰だ。
「”勝ち目のない敵とは戦うな”オレが口をすっぱくして教えたよね?」
・・・・・ホント大事に・・・いや過保護に育てられたなキルア。
お兄ちゃん、ちょっと同情しちゃうよ。
キルアが後ろに一歩逃げようとすると、「動くな」と静かに命令される。
「少しでも動いたら戦い開始の合図とみなす。同じく、お前と俺の体が触れた瞬間から戦い開始とする」
「・・・・・・・・」
「止める方法は一つだけ。わかるな?だが・・・忘れるな。お前が俺と戦わなければ、大事なゴンが死ぬことになるよ」
・・・・・・・今、この短い時間に、こんな重たい覚悟は・・・・酷だ。
俺は事の終わりを見切った。
静に、キルアを見つめる。・・・・今はしょうがないのかもしれない。
「やっちまえキルア!!どっちにしろお前もゴンも殺させやしねぇ!!
そいつは何があってもおれ達が止める!!お前のやりたい様にやれ!!」
レオリオが怒鳴る。
「まいった。オレの・・・・負けだよ」
「・・・あーよかった。これで戦闘解除だね」
すげぇ可愛らしい笑顔で、イルミがぽんと手を打つ。
・・・・やっぱブラコンだろ?
「はっはっは。ウソだよキル。ゴンを殺すなんてウソさ。お前をちょっと試してみたんだよ。
・・・でも、これではっきりした」
ぽんぽんとキルアの肩をたたいたあと、キルアの頭に手をおいて低く言った。
「お前に友達をつくる資格はない。必要も無い。」
「今まで通り親父やオレの言うことを聞いて、ただ仕事こなしていればそれでいい。ハンター試験も必要な時期がくればオレが指示する。今は必要ない」
戻ってきたキルアは俺と目を合わせてくれなかった。話もしてくれなかった。
その後、レオリオ対ボドロ戦でキルアはボドロの心臓を一突きして殺し、会場を去っていった。
20051002