「あ。もしもしイルミ?俺今から行くから攻撃すんなよ?」
『うん』
「じゃぁな」
仕事
俺が壊しつつ入った門の先には、犬かどうか疑わしいほどでかい犬がいた。
おそらくアレがミケだったんだろう。
ホント徹底して訓練を受けたらしく、瞳はすでに機械のようだった。
・・・・ちゃんと門から入ってよかった。
それからイルミに「攻撃しないでね」コールをして、フードを被って、
”クリムゾン”モードに切り替える。
それからイルミを呼ぶ。おなじみの霧になるような感覚の後、
晴れた視界の先に見えたものは・・・・ナイフの切っ先。
「!!」
間一髪で叩き落とす。
「・・・・」
ナイフの飛んできた方向をゆっくり見ると、そこには銀髪の麗しい男性がどっかりと、
たくさんのクッションに囲まれて座っていた。
・・・・誰?
「あ。?いらっしゃい」
男性の真正面あたりにイルミが立っていた。呑気に片手を挙げて挨拶してくる。
「・・・・イルミ。なんでナイフが飛んできたのかな?」
攻撃しないでねって言ったのにッ!
「あぁごめん。親父に言うの忘れててさ」
「・・・・・親父?」
「親父」
こくんと頷いて、先ほど素敵な歓迎をしてくれた男性を指差すイルミ。
「・・・・・・・・若っ!!!」
何あの肉体美!何あのピチピチのお肌!!めっちゃ髪の毛ふさふさじゃん!!
「ぷっ・・・・・・ククク・・・・悪いな、つい手が動いてな・・・お前がクリムゾンか?」
先ほどの男性が口元に手を当ててクスクス笑っている。
笑われてしまったことに、ちょっと凹み、ちょっと照れる。
「・・・はい。貴方が依頼人ですか?」
スッと仕事モードに頭を切り替える。
ここから俺はクリムゾンだ。これは仕事。見縊られてはいけない。誠意を示さなければいけない。
「そうだ」
「・・・・以後俺に攻撃するのは控えていただきたい。御依頼内容を聞きに参りました。内容によっては承りませんので御了承ください。」
喋り方も不自然でない程度に整える。
「・・・・わかった」
「では、御用件を」
「ある獣を捕獲、この屋敷まで連れてきて欲しい」
「ケモノ?」
「あぁ、凶暴な犬化の獣だ。此処からそう遠くない森に居る。体長2メートル以上のものがベストだ。
色は灰色。目の色はさまざま。なんでもいい。・・・・できるか?」
「・・・・・その獣。どうするのです?」
殺す目的なら却下だ。俺わんちゃん好きだし。
男性は、俺を見据えたまま、軽く言い放った。
「訓練して番犬にする。まぁ、もうミケが居るからペット扱いだがな」
・・・・番犬増えるの!?
「・・・・そ、そうですか。わかりました。期日をうかがいましょう」
「・・・早ければ早い方がいい。金額はいくらだ?」
「交通費、食費。それ以外はお気持ちで」
「お気持ちで、なぁ・・・・。獣が来てからってのでいいか?」
顎に手をやって考えていた男性が尋ねてきた。
瞳に俺を試している感じが伺える。
軽い挑発。
―――だったら・・・乗ってやろう。
「はい。では、今から行ってまいります」
にっこりと口端を持ち上げる。
「ほぉ、今から?」
男性もにやりと口端を上げる。
「早い方が、良いのでしょう?」
まだ2時くらい。急げば夕方にはできるかもだ。ファイト俺。
うまく仕事して試しの門の破壊見逃してもらわなきゃ!!(実は必死
「試しの門からの方角と距離を教えていただけますか?」
「南南東に200キロほどだ」
「わかりました。では後ほど・・・。またなイルミ、すぐまた来る」
そう言って俺はお仕事へ向かった。
ゼブロさんを呼んで試しの門へつくと、ゴンたちに気づかれる前に南南東へとスタートダッシュを決めた。
200キロくらい俺の足ならちょろいね☆
・・・・さんざ鍛えられたからなぁ〜。俺の血と涙の結晶さ!
そんなことを思いつつ、野を越え山を越え、時にはお宅の屋根越えて、そう時間もかからず森に到着。
怪しげな鳴き声がいたる所から聞こえる。
・・・・でかい犬〜わんこ〜灰色わんこー。
なんてひたすら繰り返しながら、気配を殺して楽しげに森を散策する。
探し始めて30分ほどして、3メートルに届きそうなでっかい灰色の塊を見つけた。
アイツ合格!!
君を瞳にロックオン!・・・ってなんか違うか。
そろりそろりと近付く。ちょっと脚に力を入れて真正面に回りこむ。
「ぐるるるる・・・・」
ごわごわの灰色の毛に、大きい口。狼に近い骨格。耳はピンと立っている。
鋭い眼光は蒼。
いきなり現れた俺に警戒心丸出し。
こいうときは、可哀相だけど、実力の差を見せ付けてやれば、大抵のヤツはおとなしくなる。
「・・・・座れ」
殺気を込めて低く言い放つと、そいつはビクリと振るえて、その場に座った。
俺は基本的に動物は好きだし懐かれるけど、これから人に託すのだから、あまり情を移してはかわいそうだ。
「・・・・おとなしくしてろよ?痛くはしねぇ。これから行く先ではいい子にすること」
「くぅ〜・・・」
俺が命令すると、耳を垂れ、大人しく伏せる。
かなり頭がいい。いい番犬になるだろう。
よし!後はコイツを連れて帰るだけ。
ついここ数年のことだが、頑張れば触れたものも一緒に瞬間移動できるようになった。
ミラクル鎌さま。
行きは大変だけど、帰りはらくらくだな。
+++++++++++++++
「――ただ今、戻りました」
もやの晴れた視界の先。
ゾルディック家の主の部屋には、先ほどの面子が同じ位置のまま存在していた。
2人とも俺と、俺の連れた獣を見て驚いている。
わはは!驚いたか!俺、さりげに仕事が速いの売りだから。
―――なめんなよ?
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