噂以上だった。

 

 

 

岡目

 

 

 

その夜、俺は賊が図書館内に入るのを待って図書館に入った。

円は賊の気配を捉えると、賊に合わせて縮んでいった。

俺が展示のされている円形の部屋の前まできても、円の気配は無い。

おそらく部屋の範囲には円がしてあるだろうから、俺はこれ以上近付くのをやめて中を盗み見た。

まぁ、堂々と入っていってもいいんだが、それじゃつまらない。

俺はクリムゾンの戦う姿がどんなものか見に来たんだから。

 

 

 

 

 

 

ヒュッ

 

 

 

鋭く空気を切り裂く音がした。

 

覗き見れば死神が鎌で雑魚を薙いだところだった。

・・・・体が切れていないのは念か何かだろうか。

 

死神は昼よりも死神らしく見えた。

宙を舞う姿は、噂どおり優雅だった。

美しい鎌の柄の赤が、円形のその部屋の上部の窓から差し込む光で艶やかに光る。

本当に、人間と戯れにでも来た死神のようだ。

 

音も無く、ふわりと床に降り立った死神は、ゆるりと口端を持ち上げた。

 

「言っとくが逃がさねぇぞ?」

 

昼のような刺すような声ではなく、凛として艶やかなそれに、俺は知らぬ間に口端を持ち上げていた。

 

 

ぶわり、と死神のまとうオーラが膨れ上がった。

瞬時に現れたのは紅い、血のような液体。

無数に漂う大小のそれが、空間をふよふよと漂う。

綺麗だった。

 

「っ?!何?!」

 

雑魚が声を荒げた。

・・・・・せっかくの景色も台無しだ。

 

「っ!気にするな!殺れ!」

 

男の声に雑魚の一人が近くにあった液体を切り裂こうとした瞬間。

 

「あぁ、触らない方がいいのに」

 

ぼそり、と死神がいった。

俺からは後姿だったが、その声はなんとも楽しそうだ。

具現化したんだろう雑魚の武器が、次の瞬間溶け出した。

パンッと軽い音を立てて、液体が破裂した。

連鎖して空間の全ての液体が破裂し、降り注ぐ。

 

ザァっと液体の降る様は、まるで血の雨。

 

でかい男が俺の近くまで飛んできたが、そんなこと気にしない。

 

―――とても綺麗だった。

 

降り注ぐ紅い液体が。

月光を反射して光る様が。

死神がゆったり微笑んで、一人その雨に濡れずに佇んでいる様が。

一枚の絵画のようだ。

 

 

 

 

死神は次々と雑魚共を薙いでいく。

本当に舞っているかのようだ。

「・・・・残念だったな」

全員を倒した死神は、ひゅんっと鎌を一回りさせて持ち直した。

 

「・・・・・・・・ところで、さっきから覗き見してんのは誰?

 

前半はおそらく逃げようとした雑魚に対してのもの。

・・・後半は・・・間違いなく俺。

見つかってしまったか。

「・・・・・絶は完璧なはずなんだけどな・・・」

そうつぶやいてから、俺は死神の前にゆっくりと歩み出た。

俺の姿を捉えた死神から、驚いたような雰囲気が伝わる。

「・・・・・昼間の・・・」と、小さく漏らした。

 

雨はやまない。

 

「覚えててくれた?すごかったよ、君のバトル」

「・・・・お前も本が狙いか?」

鋭い声が俺に突き刺さる。

その声は、もしそうなら容赦はしないとでも言うようだ。

「いや?俺は噂のクリムゾンを見に来ただけ。そういえば、君は本物のクリムゾン?」

本は好きだが、死神とやりあうのは面倒だし、最初からその本にはそんなに興味は無い。

暇つぶしに見てこうと思っただけだ。

 

「・・・・・・・・・・本物も何も、俺は俺だ」

 

死神は簡潔にそう述べた。

それから用が済んだなら帰れと言った。

「俺としてはもうちょっと話がしてみたいんだけど・・・しょうがないね」

せめて素顔くらい見たかったけど、あの液体の届く範囲に入るのことは懸命ではないだろう。

「今度会えたら俺たちの仲間に誘うから、考えといて」

そう言い残して俺は踵を返した。

 

思った以上の収獲だ。

面白い能力も気に入った。

それに、クリムゾンの舞う姿・・・。

是非とも、手元に欲しいな。

 

 

俺は久々の高揚した気持ちに、知らず口端を持ち上げていた。

 

 

 

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20051216