あぁ、腹立つ!!
モルモット
昨日、俺はズシを人質にとられて、仕方なしにあの能面みたいな野郎と試合の申し込みをした。
「わざと負ける」と「ゴンとやるならゴンに合わせる」を条件に。
それなのに、あいつ、ゴンにまで脅迫してやがった。どこまで腐ってやがんだ!
そして、今、眼前にはヤツがと対峙してる。
「よろしくねぇ〜ちゃん」
「よろしく」
はかなり不機嫌そうにサダソをみらみつけた。
昨日試合の前に脅して追い払ってやるって言ったんだけど、拒否された。
「俺的には、ストレスは発散するに限る。目の前にいい感じの解消対象があるのに見す見す逃すだなんて考えらんねぇ」らしい。
まぁ、だし。と諦めた。
それに、あの時、、口元は笑ってたけど、目が・・・かなり怒ってた。俺が思わずゾクリとするほど。
「俺は負ける約束なんてしてねぇから、コッテンパンにしてきてやる」って。
「ポイント&KO制時間無制限! はじめ!!」
「行くよ〜ちゃん」
ずずず・・・・とオーラの増加に伴って、サダソの左手の服がはためく。
『サダソの見えない左手!!これに捕まったら最後!初出場の選手はどう戦ってくれるのか!!手に持っている大きな鎌が気になります!!』
興奮気味な実況の声がスタジアムに響く。
けど、は腕を組んだまま微動だにしない。相手の出方を伺うつもりらしい。
いつものコートは着ていなくて、肩がバックリ出てる服で立っているから、細さが目立つ。
けど、頼りなさは全く無い。
むしろ、俺はさっきかゾクゾクしてる。
何かが起こりそうな予感に。
『おぉー?選手腕組したまま仁王立ちです!』
「こっちから行っちゃうよ〜」
そう言いながらサダソがへ走りよる。
『サダソ選手仕掛けた〜!!』
盛り上がるスタンド。
しかし
ヴォン・・・・・
次の瞬間が消え、サダソの後ろから思い切り鎌を振り下ろした。
サダソは間一髪で反応し、避けようとしたが、もろに刃の餌食となった。
「ぐあぁぁぁ・・・・っ!!!!!!!」
静まり返るスタンド。
はっと我に返った審判が叫ぶ。
「クリティカル&ダウン!!3ポイン!!!」
『な、なんと先制点は初出場選手〜〜〜!!一瞬にしてサダソ選手の背後に回っての一撃でした!』
わぁぁぁああぁぁ!!
スタンドが歓声をあげる。
―――早い・・・。
俺でさえ、なんとか残像が見えたくらいだ。
俺はさっきまでの苛立ちを忘れて目の前の試合に釘付けになった。
『サダソ選手は大丈夫でしょうか!?KOならば選手の勝利となります!!』
鎌を肩にかけて、痛みにうめくサダソを見下ろす。
「・・・・立ったら?切れてねぇだろ?」
「・・・・・・・・ぅ・・・ぐ・・・・・っ!」
『切れていない?どういうことでしょうか!!はっきりとサダソ選手は刃の攻撃を受けたように見えましたが・・・』
の言葉にどよめく周囲。たしかに、サダソから血は流れていないし、鎌も汚れていない。
さっき見たぶんだと、体を上と下に真っ二つにされててもおかしくない。
・・・念か?
「立てねぇ?」
「・・・・・・・・・・ぐっ」
腕に力を入れるも、ふらついて上手く行かないサダソ。
はそれを見下ろして、にーっこり。という効果音がぴったりな笑顔を見せた。
いつも俺たちに向けてくれている笑顔と、対極な顔。
・・・・・・・・怖い。
「立て」
が顔に見合わない鋭い声を発すると、何かに吸い寄せられるかのようにサダソが立ち上がった。
『な、なんと!サダソ選手立ち上がりました!!試合続行です!!!!』
「意識はあるよな?」
「・・・・なっ・・・ぅ」
サダソはがたがたと振るえ、額にはじんわりと汗がにじんでいる。
「アンタはいい感じのカモが欲しかったんだろうが、おあいにく様だぜ?俺はカモは性質にあわないからな」
はサダソの顎に人差し指を添えて自分の方を向かせると、見せつけるようににっこりと微笑んだ。
「俺は丁度いいモルモットを探してたんだ。ちょっとばかっし付き合えよ」
次の瞬間、サダソはいきなり踊り出した。
しかも、ワルツだ。
『な、何が起こったんでしょう?!サダソ踊り出した―――?!』
と、思ったら、今度はエレベーター待ちの親父定番のゴルフの素振り。
スキップ。
お辞儀。
バック転。
倒立。
・・・・・・・・・・・。
・・・おかしい、立てないほどのダメージを負って、こんなことできるはず無い。
『何が何なんだ―――?!サダソ、頭の打ち所でも悪かったのかー!!』
サダソは尋常ではない汗を流しながら、朦朧としていた。
『おぉ―――っと!!サダソ選手自分の首に手を回した〜!!』
するりとサダソの首に巻きつくサダソの手。
「実験は成功。美味い事動いてくれて有難う。修行した甲斐あった」
サダソの口からは最早ひゅーひゅーと鳴る肺の悲鳴しか聞こえない。
「実験は終ったら、モルモットは・・・・用なし、だよな?」
ニィ―っと口端を上げるその様はまるで死神。
「可愛いモルモットならいいんだけど、あいにく俺は可愛い子を苛める奴は大っ嫌いなんでね」
ぐっとサダソの首をしめている手に力が篭る。
「・・・・・・・・・・・・・・どうしようか?」
じっとサダソの目を覗き込みながら言う。口元は笑っていても目が笑ってない。
「・・・・・・・・・ひゅー・・・・ひゅー・・・・・・っ・・・」
「・・・・もう俺の友人の前に現れるな」
はそうサダソの耳元に顔を寄せて脅すように言って、踵を返した。
次の瞬間、ドサリとサダソは糸が切れたかのように倒れた。
意識はないと思う。死んだようにさえ見える。
俺も同じタイミングで力を抜いた。
いつのまにか、俺もの殺気に飲まれて緊張していたらしい。
「・・・・・・・・・・ダウン!!サダソ失神KOとみなす!!勝者!!!」
は、その審判の声を聞きながら、まだ混乱しているスタジアムを去っていった。
「「!!!」」
「・・・・・・おぅ?ゴン・キルア!どうしたよ?」
試合が終った後、ウィングんトコで待ち合わせしていた俺たちに、現れたは普通だった。
こっちアレが何だったのか聞きたくてうずうずしてっつうのに!
でも、なんだか普通のにほっとしてる俺も居る。
「さっきの何?やっぱり念なの?」
ねぇねぇ!と矢継ぎ早にゴンが質問を浴びせるとは困ったように笑った。
「まぁ、そう慌てんなよ。あーっとウィングさん」
部屋の角のイスに座ってこっちを微笑ましいって感じで見ていたウィングにが声を掛ける。
予想していなかったのか、ちょっときょとんとしながらウィングも首をかしげる。
「はい?なんでしょう?」
「えっとー俺の試合ってビデオに撮ってたりしませんかね?」
「あぁ、それでしたら一応、撮っておきましたけど」
合点が言ったかのようにくすくす笑うウィング。
「そんじゃ、ちっとばかし恥ずかしいけど、それ見ながらどこが気になるのか教えてくれねぇ?」
そんなわけで、俺たちは凝の修行もふくめて、ビデオ鑑賞をする事になった。
20060218