何だ?コイツは。
異質
最初、なんとなく殺す気にならない男だと思った。
次に少し会話をするのも悪くないと思った。
その次は、男の色の美しさに目が行った。
そして今、此処に存在する頭でも足でもない存在がわからなかった。
危険視すべきか、やすやすと気を許していいものか。
クロロはただじっと目の前の男を見つめた。
「だんちょーさんのお名前は?」
男はにっこりと笑って、首を傾げながら聞いてくる。
そこらへんの子供がするように。
コイツは強い。
それは経験でわかる。頭も悪くは無いのだろうこともわかる。
しかし、ここにいる面子も強い。1対1で五分。
いや、能力の相性もあるからわからないが、それにしたって怪我は免れないだろう。
まして5対1のこの場面。どうして男は臆すことなくここに笑っている?
そしてコイツは少なからず俺たちが危険分子であることを理解しているし、俺たちの力量も測り間違っていたりしないだろう。
「お前、何者だ?」
「」
「・・・・・・・・いや、そうでなく」
「?」
・・・とりあえず、本気でボケである事はわかった。
演技ではないだろう。
なにせパクノダが笑っている。
あいつはそういうのには敏感な方だ。
こちらが優勢という事もあるが、フィンクスも疑い深いシャルも何故かコイツに心を許している。
コルトピにしたって触る事を許可した。
この男に興味が湧いた。
常から逸脱した俺たちの中で、さらに異質。
異質の中の異質。
いや、異質の中で”普通”だから異質なんだろう。
普通の定義は難しいが、この人物のペースは崩れていないだろうことは確かだ。
だからこそ、異質である俺たちの中で浮きたって異質なのだ。
俺たちを危険視していないかのような、普通の人間と会ったときのような反応。
かといって、自分を小市民などと言っていたところからすると、自身を過信するタイプの人間ではない。
むしろ己の事に限って過少評価をするタイプだ。なのに・・・
「どうして俺たちを恐れない?」
「・・・・は?」
返ってきた間抜けな声と表情。
・・・・俺は変な事は聞いていないはずだぞ?
・・・・・・・・・たぶん。
「普通、俺たちの知識のある者は恐れるか逃げるかするものだろう。
ましてお前は俺たちと自分の力量を測りそこなってはいないはずだ。
この状況で何故笑っていられる?」
俺が訪ねると、奴はことりと首をかしげて俺を見る。
・・・さぁ、なんて答える?
「・・・・何で俺がアンタ達を怖がらなきゃいけねぇの?」
は?
・・・自信を持って言える。今俺たち蜘蛛のシンクロ率は100%だ。
質問に質問で返された。どうしてだと?
「んなもん、おめぇ・・・俺等が強くて殺しするからじゃねぇか?」
フィンクスが呆れ顔で言うも、そいつの表情は変わらない。
「フィンクスは俺殺すのか?」
「いや、殺さねぇけど・・・」
「じゃぁいいじゃん、強かろうと、弱かろうと」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・』
俺たちが絶句していると、ソイツは続けた。
「俺はねぇ、俺と俺の大切な人らが殺されなきゃ平気なわけ。それに俺仕事終ったから守るもの無いし。逃げるのは得意だし。それに・・・
俺はアンタ達の空気、嫌いじゃない」
そんな風に言って、ふわりと笑った。
不覚にも見とれてしまった自分がいる。
これは、心地良い。
「・・・・・・・・・・・・・・クロロ=ルシルフルだ。覚えておけ、」
そういうと、嬉しそうな笑顔が返ってきた。
あぁ、捕まった。
20060510