どうしましょう。面白いわ。
名乗り
音も無くひらりとコルトピの前へ降り立った彼の身のこなしに、一瞬見ほれてしまって、けれど、一瞬後には彼の次の行動が気になった。
背筋に緊張が走る。
何をする気なのかしら。
そう思ったのは私だけじゃないようで、寝転んでいたフィンクスも体を起こし、団長もシャルナークもそれとなくそちらに目を向けて警戒する。
コルトピは、にじりと後ずさって彼に困惑と警戒の目を向ける。
そして彼が取った行動は・・・・
「ぶっ・・・・!!ぶあはははははははははっ・・・ヒーっ!・・・っく、だはははははははは」
なんと、しゃがみこんで満面の笑顔で飴玉を取り出すことだった。
あぁ、フィンクスが笑い転げてるわ。
ばしばしと瓦礫を叩いて目に涙まで溜めてる。
団長とシャルは目を見開いてるし、私も噴出しそうだわ。
「え?何?そこの兄さんは何で笑ってるんデスカ?!」
しかも天然よ。天然。
あぁ、なんて面白い子かしら。
いい意味で色々裏切られた気分よ。
「あなたが飴玉なんて意外なものを取り出すからよ」
「オ、オレもビックリしたよ」
私が言うとシャルナークも賛同する。
だってねぇ、いくらコルトピが小さいといっても、飴玉って・・・・。
可愛い過ぎるわ。
言っとくけど私たちA級犯罪者集団よ?
「意外・・・デスカ?」
首を傾げているところからして、重症よ。この天然ボケ。
「く・・・くくっ!!お、おまっ、怪しい奴から食いモンもらうとかありえネェだろ!」
し、しかも飴玉!なぜに飴玉!!と、フィンクスが未だに転がりながら言う。
すると彼は一瞬驚いた顔をしてから言った。
「そうか!!”知らない人からお菓子をもらっちゃいけません”!!」
「「「ぶっ」」」
ゴメンナサイ、今回ばかりは耐えられないわ!!
私とシャル、フィンクスが同時に噴出し、団長は稀に見るびっくり顔!
「そして”知らない人に付いて言ってはいけません”
あと ”もしものときは近所に駆け込め” そうか、すっかり忘れてた。よい子3か条」
「「「・・・・・・・・!!!(爆笑」」」
だめ、だめよ。誰かなんとかして頂戴!目の前が涙で霞んできたわ!!
「・・・・・?皆さん笑い茸でも食べた?」
「・・・・い、いや・・・」
真剣に首を傾げる彼に、コルトピはなんと言っていいものか言いよどむ。
「うふふ・・・可笑しいわね。こんなに笑ったの久しぶりよ。その飴、私にくれないかしら?」
ぽかんとしているその子に、涙を拭きながら言う。
何だかとってもいい気分よ。
この飴がなんなのかは、触れば分かる事。
近くまで寄って、どうぞーっと私の前に伸ばされた掌から適当に一つとって口に含む。
もちろん、悪いけれど記憶も読ませてもらったわ。何気なく空港で買ったものね。
「・・・おい、パク」
程よい甘さに口をほころばせると、後ろの団長から少し緊張したような声が聞こえる。
「なかなか美味しいわ」
振り返って、大丈夫。と視線で伝えると、団長はすこしばかり肩の力を抜く。
大丈夫、彼は本物のボケよ!
「ほらな?ただの飴」
はい、アゲル。と再び手を伸ばす彼に、コルトピは私の方を伺いながら、おずおずと一つ手に取る。
彼はそんなコルトピを見て、満足そうに笑って、「なぁ、撫でていい?」なんて、キラキラした顔で言うの。
絶句よ。
幻影旅団の頭を撫でようとするなんて!
コルトピは一定の距離以上近寄らず、彼の手をじっとみて、それに気づいた彼がわざわざオーラを絶って見せてにっこり笑う。
降参したのか、ちいさくコクリと頷いたコルトピを上機嫌で撫でる彼をみて、フィンクスが笑い転げたのは言うまでもないわね。
「あー!笑ったぁー!!!よし!お前気に入った!オレはフィンクス。お前は?」
起き上がったフィンクスは彼に興味が沸いたみたい。
なんだか、ここ小1時間もたっていない時間が、とてつもなく濃くて、なんだか彼が此処にいる異質な空間が、自然に思えている自分に気が付いた。
なんて懐に入るのが上手い子。裏表がまるで無いというか・・・。
シズクとウヴォ―を足して壊した感じかしら。
「俺?俺は。えーっと・・・よろしく?フィンクスさん」
「さん付けなんてすんなよ!むず痒くてしょうがねぇ!敬語も使うなよ?」
もともと敬語や尊称を嫌うフィンクスは、身震いして彼を軽く睨みながら忠告する。
「じゃぁ、フィンクスな」
にまりと笑って返す彼が、光に当たっているとか、白い服だからとか関係なしに眩しく見えた。
「オレはシャルナーク。シャルって呼んでくれていいよ。オレも敬語とか無くていいから」
「ん。よろしくな、シャル」
はいはーいと手を上げたシャルが自己紹介して、彼もそれに破顔して答える。
「で、君は?」
「・・・・・・コ・・・コルトピ・・・」
「よろしく、コルトピ」
コルトピに関しては、もう完全に年下と見なしてるみたいで、ぐりぐりと頭を撫でながら上機嫌。
「私はパクノダよ。パクでいいわ。敬語もいらないわよ?よろしくね」
「よろしく。パク」
ふわりと私に向けられた笑顔は、眩しくて、優しくて。
私たちとは縁遠く、慣れないものだけれど、一度知ってしまったら病み付きになりそうだわ。
20050507