・・・・・視線が痛い。

 

 

 

仮初めの宿

 

 

 

やっとヨークシンについて、さっそくロイス情報の仮宿へ向かった。

・・・・は、いいが、ツルバミが一緒のせいか、視線が痛い、痛い。

 

とくに、女性の。

 

さすが先進都市なだけあるというか、どうもミーハー率は高めのようだ。

というか、ツルバミがデカ過ぎるのが悪いと思うぜ俺は!

俺はそこそこ身長はあるのに、頭一つでかいってどうよ?羨ましい・・・って違う!

兎に角、ちらちらとこちらに向けられる視線にうかつに動けないし、発言できない。

 

 

「・・・なぁツルバミ」

「ん?」

呼び掛けるも互いに視線は合わせない。只管前を見て進む。

「お前鎌に戻ってみる気ねぇ?」

無ぇ

 

・・・・即答ですか。

 

「そもそもツルバミがでっかいのがいけねぇんだよ」

「お前の毛色も目立つだろうがよ」

いや、お前の毛色のが目立つって絶対!!

だって真っ赤。しかも長いし。

「こりゃー都市内は目立つな・・・やっぱ郊外の方するか。仮宿」

回りを見渡して、何故か目立ちすぎている自分たちに溜息をつきながら決断を下す。

できればシャワーは使えた方がいいから、都心か郊外かの2択だったのが、相棒が目立ちすぎるという予想外のアクシデントで一つに絞られたわけだ。

 

 

 

「うわぉ」

とりあえず郊外の廃墟へたどり着いた。

すごい、結構大きな建物で、結構確りしている。

まぁ、見た目とっても出そうだけど。

何がって・・・ねぇ?チビっ子が泣いて恐れるものだよ。

一説には足が無いらしいね、奴等には。

 

 

「おい、とりあえず中入るぞ」

俺がキョロキョロしていると、ツルバミが俺の手を引いて建物内に入る。

入ってすぐのところは上の階が崩れたのか吹き抜けになっていて、瓦礫が山になっている。

脇に入れば階段があって、結構たくさんの部屋があり、ベットや家具のある部屋もいくつかある。

どうやらマンションか何かの廃墟らしい。

ロイスの言った通り、使える風呂もいくつかあるし、1階にはそこそこ広いキッチンなどもあった。

冷蔵庫などもあって、電気は通っていないが、今の季節は入れておくだけでも食料をだめにする事は無いだろう。

 

 

いろいろ見て回った後、最初の瓦礫だらけの部屋へもどり、瓦礫の一つに腰掛けて一息つく。

「おっし!とりあえずココに決定な!仮宿」

水道とベットがあって確りしてれば言う事はない。

 

「んで、その箱はどうすんだよ?」

いい仮宿が見つかって、うきうきと、これからの予定をどうしようかと持ちかけようとしたら、ツルバミに先を越された。

足と腕を組んで偉そうだ。

まぁ、それは置いといて。こういうときは、じっとしているが吉だ。まぁ、そのための仮宿だ。

問題はツルバミの言ったとおり箱をどうするか。

「結構邪魔な大きさなんだよな・・・」

かといって一般の金庫などには預けられない。

「・・・腕輪でも買ってくるか」

 

 

 

実は、飛行船内でも修行して、能力を新たに一つ、習得した。

ツルバミと会話しながら思いついた技。

技って言うか・・・なんというかだけど。

俺がツルバミを指輪に・・・正確には指輪の石に入れられるのをヒントに、

モノを石に取り込む能力。

もともと、宝石なんかに指定されてるようなものは、気や念に向いてるらしい。

ツルバミが言うには・・・だけど。

ちなみに今までツルバミ用に使ってた指輪の石は黒曜石の親戚みたいなやつ。貴重なものらしい。

それで気の要領で・・・ってツルバミに手伝ってもらいながら頑張ったら、意外に早くできてしまった。

練習には、勝手に部屋の装飾に嵌めてあったエメラルドを使わせてもらった。

そして注意点が一つ。質のいい石と悪い石で容量が違うこと。

俺がたまたま持ってた良く分からない石ではすぐ砕けてしまったのだ。

だから勝手に装飾品の宝石使ってみたわけだ。壊れなくて良かった。

 

 

「んじゃぁ一旦街に戻るのか?」

唸る俺にツルバミが立ち上がりながら尋ねる。

「そうだな。食料も調達しないと。宝石代はシルバさんに貰えばいいし」

あとは寝具と調理器具。

 

 

 

 

 

「おい、コレなんて良いんじゃネェか?」

「ん?どれ?」

 

俺たちは今ヨークシンシティの一角、小さな露店が連なる通りに来ていた。

宝石店に行っても良かったんだが、安く手に入れば安い方がいいに決まっている。

なんてったってお得感満載。

結構な人が行き来する通りで、ツルバミがアクセサリーを扱っている店を見つけて一つの指輪を手に取る。

黄色の石が嵌め込まれたシンプルな指輪だ。

「んー・・・でもこれ以上指にいろいろつけるのもなぁ。ネックレスとかカフスとかねぇの?」

あんまり手元がジャラジャラするのは好きじゃない。つけるなら一つ。

そしてピアスはしない主義だったりする。

・・・・・・・自分の耳に針指すなんて無理!!まじ怖ぇ〜〜〜!うぉっ!考えただけで鳥肌が!!(弱

 

「んー・・・・。ぉ、これ良くねぇか?」

ツルバミは、そう広くないスペースをグルリと見た後、一つのネックレスを手にとった。

凝った細工の十字で俺の好きなシルバー。くすんでるところとかモロ好みだ。

クロスの中央部分にやや大きめの楕円型の石が嵌っている。

ツルバミの髪の色みたいな深い赤。

スタールビーみたいな中央から外への放射状の模様が、一段と深い赤で入った不思議な石。

ふつうのスタールビーは白っぽい模様が入るんじゃなかったろうか。

「・・・不思議な感じだな」

引き込まれるような、赤。

じっと石を見ていると、ふっとツルバミが手を引っ込めて、まじまじクロスを見た後、俺の喉元に当ててみせる。

やや大ぶりなソレが俺の胸元にあたる。

「ん。似合うじゃねぇか。結構いい石だぞ、コレ」

なんて石だか知らねぇがな。

そういって笑うツルバミ。近頃よく思うが、コイツ、猫型の大型獣とかに似てる。

マイペースだし、つり目だし。笑うと特に、そんな感じがする。

 

「おぅ、店主。コレ幾らなら売る?」

俺がボンヤリ考え事をしていると、俺の返事を聞かずに勝手に交渉を始めるツルバミ。

楽しげに、口端が持ち上げて店主を言い包めている。

俺はそれを微妙な気持ちで見守った。

 

 

「ほらよ」

 

値切って15000Jで手に入れたクロスを俺の首につけるツルバミ。

「サンキュー」

「早速やってみろよ、ソレ」

ソレ、とツルバミが顎でしゃくって見せたのは、俺の小脇に抱えられている箱だ。

実は、これを買う前に買ったブレスで試してみたら、見事にブレスが砕けてしまったのだ。

今度はどうだと、ちょっとドキドキだったりする。

一応人気のない路地に入ってから、念を始動する。

深呼吸して、落ち着かせてから、箱をオーラで包み、ソレが液体になって石に流れていくのを思い浮かべる。

すると、しゅるっと音を立てて石に箱が納まった。

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

じっと、2人してクロス中央の石を見つめる。

「・・・・・・・成功?」

「・・・みたいだな」

「おっしゃ〜〜〜!!当たり!!」

今度の石は大当たりだったようだ。

うしっ!とガッツポーズをとる俺をツルバミが撫でる。

なんだか子ども扱いな気もしないでもないが、まぁ悪い気はしないから何も言わない。

カイト兄もよくしてくれるし。

「んで?次は何処行くんだ?

 

「ショッピングセンター★」

待ってろ俺のご飯。

 

 

 

++++++++

 

 

デパート。正確に言うとデパートメントストア。

俺たちは手近なところで大型店舗を発見して早速お買い物している。

 

 

4階では寝具。ふかふかのベットのスプリング?というのか、その部分と布団一式を買い。

その下の階の生活用品店では、フライパンと菜箸、お玉、スポンジと洗剤、あとタオルを数枚購入。

そして今、地下一階食品売り場。

ちなみに今まで買ったものは、しばらく戻る気が無いらしいツルバミ用の指輪の中に仕舞ってある。

ツルバミは微妙な顔してたけど、俺的にはあの箱と私物を同じモンの中に入れるほうが微妙だ。

 

カラカラとカートを押して、野菜は冷凍の物を中心に、肉はハムやベーコンなど日持ちするものを。

そのほか乾物や飲み物を買った。

さて、次は何を買おうかと売り場を見渡し、あ、パン買っとこう、とその方向へロックオンしたときだ。

ぺタっと俺の頬に冷たくて堅いものが当たった。

「?!」

急いで振り返れば何処かへいっていたツルバミが酒のビンを俺の頬にあてていた。

「何すんだよ。ビビったじゃんか!」

「別に」

と手に持っていた5本の酒のビンを自然な動作でカートに入れるツルバミ。

 

・・・・・・・・・・買えと?

 

「・・・いいだろ?」

じっと見つめればちょっと口を尖らせて俺を見下ろすツルバミ。

「・・・・・・・飲みすぎんなよ?」

どれもいい酒で高そうだけど、まぁシルバさん持ちだし。

 

その後フランスパンを買って、ジャムを買って。

あと10日過ごさせるだけのものをそろえると俺たちは仮宿へと帰った。

 

 

 

 

 

「はぁ〜〜〜〜なんか疲れた〜〜〜〜」

冷たいシャワーを浴びて、あの突き抜けの広間から近い確りとした部屋を綺麗にして、

ベットをセッティングして、そこへボフリと横になる。

長い道のりだ。

ツルバミはそんな俺を見てクツクツと笑う。

ちょっとむっとして視線を投げかけると、気づいたツルバミは笑いながら手を横に振る。

「いやな、ホントガキっぽいなぁ〜と思ってな」

なっ何ですと〜〜〜〜!?

「いやちょっと待て、ソレはかなりの暴言ですぜ旦那!!」

ガキっぽいって、俺今年21歳よ?そりゃ〜ツルバミから見りゃ〜ガキかもだけどさ!?

俺成人。めっちゃ大人。オトナです。おと・・・な?

 

 

 

 

 

 

「そうさ大人だとも!!」(叫

「何言ってんだよ」

 

「っく・・・容赦ねぇ。」

「俺ぁ甘くねぇぞ?」

ニヤリと笑うツルバミ。キィ!憎たらしい!!

ハンカチ噛んで引っ張っちゃうぞ!?

 

「だってよ、そうやってベットの上でバタバタしてんの見て、誰が大人っぽいと思うよ」

「うっ・・・いいじゃねぇか、疲れたんだし。べっとふわふわだし」

「だからガキっぽいんだって」

「くそぅ!悪いか!!!」

「悪くねぇ」

「・・・・・・・・・・・ぐ」

くそう、なんかすべてにおいて負けた気がする。

 

 

はぁ、もういいや。

あとは期日の約10日間、ここでじっとして箱を守るのみ。

 

 

 

 

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