順調にコトは運んだ。
・・・・・が。
遭遇
外は曇り、暗雲とはこういうのを言うんだろうってくらい真っ黒い雲が重く圧し掛かっている。
バケツをひっくり返したような雨。ばしゃばしゃとはねまくる水。
俺は今、必死こいて走っている。そりゃもう必死で走っている。
何故か?
んなもん、俺の天敵が迫ってるからだ。
え?俺の天敵って何かって・・・?
雷だよ。雷。
今めっちゃゴロゴロぴかぴかしてんだよ。
マジ怖ぇんだよ!ガキとか言うなよ?それもこれもツルバミの所為だし。
あの特大鎌のおかげで、俺は小さい頃から落雷の的だったんだこの野郎。
どんだけ痛ぇかわかるか?!死ぬかと思ったぜ!!へそ取られるとか生易しいもんじゃないって!!
そんなわけで俺は雷が大嫌い。
早く建物内に入りたくてしょうがない。
ちなみに、言わなくてもわかってるだろうけど、俺は今めっちゃ外にいる。
その理由は2日前まで遡る必要がある。
2日前。その日は例の箱を業者に秘密裏に受け渡す日だった。
その日まで、俺は何の邪魔も受けずに仮宿で過ごしてたわけだ。
俺は一人でしか仕事をしない事で有名だから、ツルバミが居てくれたおかげで全く疑われたかったから楽だった。
そんでその日は、朝方こっそりと待ち合わせして、合言葉・駆け引き云々をこなして、その報告にゾル家へ出向いた。
シルバさんと話して、報酬を貰って、キキョウさんの勧めでイルミのお部屋へお泊りして、朝方の飛行船でヨークシンへ戻ってきたわけだ。
それが今日の昼。
ツルバミと街を物色して、さぁそろそろ帰ろうか・・・って時に、この雷ですよ奥さん。
俺はマジ必死で走り出した。
ツルバミは俺の速さには突いて来れないから指輪へ戻した。
何やら落ち着けだの言われたけど知らん。
俺はお家へ帰るんです―――ぅ!!
冷蔵庫にはまだプリンが入ってるんだ。ベーコンとかもまだ残ってるんだよ!
あと3日分くらいの食料は在るんだって!!勿体無い!!!(貧乏性
「待ってろ――!!俺のプリ――――ン!!!」
かっ雷何か怖くないもんね――――!!
しばらく走ると廃墟郡が見えてくる。
雨の所為で視界が悪い上に服や髪が張り付いて気持ち悪いが、もうすぐ仮宿につくと思ってラストスパートをかける。
ぐんぐん近付くその真中の錆びた鉄の扉を勢いよく開け放つ。
バン!!!
扉が閉まると、ザ――――っという雨の音が遠くなった。
ゴロゴロと唸る雷も遠く聞こえる。
「・・・・・・・っは―――っ・・・・・は―――っ(息切れ」
やった。やったぞ俺!逃げ切ったぜ俺!!!!
あぁもう誰か誉めて!誉めまくってくれ!!
雷から逃げ切ったことに一安心して俺は閉じた扉に身を預けてズルズルと座り込んだ。
逃げ切った安堵感からか、全力疾走の疲労感からか、俺は全く人の気配に気付かなかった。
そんな油断しまくりな俺に、ふいに殺気が投げられた。
キィ・・・・・・・ン。
「・・・・・・・・・っ」
あっぶねぇ―――――っ!!
今までの修行は無駄でなかったらしく、咄嗟によければ、何やら小さな針状の物が床に刺さった。
見れば瓦礫の上に5人の人影。しかも、全員念能力者だ。
何で気付かなかったんだろう。それだけ強い奴等ってことか。
不法侵入ですよー。
いや、俺もだけどさ。
なんなのさ一体。くそう、全部雷の所為だ馬鹿野郎〜〜〜っ!!
「・・・・・・・・・・・・もしかして此処、アナタ方のお家ですかー?」
お宅訪問しちゃった?いや、此処俺の仮宿だよな?
「君、誰だい?なんの用事でココに来たの?」
攻撃してきたであろう一人が前へ出てくる。
うー―ん、さわやか系お兄さんだ。
身長は分からねぇが、やたら可愛らしい顔の金髪碧眼の男。
ていうか、何しに来たの〜って、俺が逆に何しにいらしたんですかーって感じなんですけど。
質問に答えようよ、俺間違ってないよな?ここ仮宿だよな?見覚え有りまくりだよな?
くそぅ!俺が2日空けたからって・・・浮気者〜〜!!(仮宿は浮気はしません)
「ちょっと、聞いてるの?」
「なにごちゃごちゃやってんだよ、殺っちまえばいいじゃねぇか」
俺がどう返事したもんかと思いあぐねている(色々考えている)と、瓦礫の上からごつい眉毛の無い男が面倒くさそうに言う。
うん、そこのごっついお兄さん、ブッソウなこと言うのやめようね。
・・・・・・・・・ていうか、あなた方俺んち(仮)で何してんのさ
マジで。
つーっと視線をめぐらせれば、それぞれ瓦礫の上に座っていたり、寝転んでいたり。
それぞれが動きを停止して俺を警戒している。
そして視線を一巡りさせて俺はあるものに気づいた。
「あ―――っ!俺のプリン!!」
そう、俺のプリンのお皿(空)
今そんな場合じゃないってわかっていても、それでも叫ばずに居られましょうや?
俺にはできないね!俺の楽しみが!!うっ・・・・涙でちゃうぞ!!
「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」
・・・なんか俺、なんだコイツって目で見られてる気がする。
++++++
飛び込んできた、黒い物体は、やっぱり人だった。
バン!という大きな音とともに俺たちの仮宿に入ってきた黒い物体。
外は酷い雨で暗いし、そいつはフードを被っていたから、いまいち、物体の正体がつかめないけど、息を切らしているところからすると人間なんだろう。
ここの廃墟を今回の仮宿に決めたのは昨日。
どうも、誰かに使われていた形跡があったけど、コイツが先人だろうか。
全く気配はしなかったから、反応に遅れた。
相手も念使いらしく、絶がうまいみたいだ。
ちらりと団長を伺うと、じっとソイツを見ているだけで、どうしようともしない。
ずるずると、ソイツがしゃがみこんだところで、警告もかねてソイツに攻撃してみた。
案外軽々と避けられてしまって驚く。
しかも、「・・・・・・・・・・・・もしかして此処、アナタ方のお家ですかー?」とか、なんだか気の抜けた聞き方してくるし。
攻撃されたの分かってんのかな。
「君、誰だい?なんの用事でココに来たの?」って聞いても、無反応だし。
フィンクスは殺せとか言うし、どうしろってんだよ。
ソイツ、暗くてよく分からないけど、ぐるりと中を見渡したかと思えば「あー!俺のプリンー!」とか叫ぶし。
何だコイツ。
僕らがポカンとソイツをみていると、プリンを食べた本人、パクノダが立ち上がって寄ってくる。
「あら、ごめんなさいね。アナタのだったのかしら?美味しく頂いちゃったわ」
と、申し訳なさそうに苦笑して、沈んだ相手を立ち上がらせようと手を伸ばした。
というか、性格にはそう言って触れるために、だけど。
パクは相手に触れることで記憶を読む能力者だから。
すると、相手は軽く拒否するように手を振って、立ち上がる。
「女性の手は煩わせませんよ。プリンは・・・もういいですよ」
そういうのが聞こえた。
でも、パクノダが反応しない。どうかしたのかと、僕も近寄る。
相手の顔が見えるくらい近くまで。
「・・・・・・・・っ」
そこにいたのは、抜けるような白い肌の、不思議な色合いの髪の男。
冷えているのか、白さが浮き立って、唇と目尻が厭に赤く見える。
びしょびしょに濡れているのが、ソイツの細さを引き立てていて、なんとも不思議だった。
・・・・コイツがさっきのアホな発言したのか。
「・・・シャル、この子どうする?」
「どうするってパク・・・」
オレに聞かないでよ。
「あの―――。とりあえず雷鳴り止むまで。贅沢言えば雨上がるまで、此処に居させて貰えませんか?」
そういう相手に僕たちは顔を見合わせる。
「「・・・・・どうします?団長」」
+++++++
なにやら、プリンを食べちゃったらしい、すばらしく悩殺スタイルのお姉さんは謝ってくれるし、爽やかお兄さんは困ってるし。
とりあえず、ちょっと置いてくれと言えば、二人揃って”団長”とやらを振り返った。
「・・・お前、俺たちが何だか知っててきたのか?」
と、低い男の声が真中辺りの瓦礫から聞こえる。姿は暗くてよく見えない。
眉なし兄さんなら高いところに居るから光が当たって良く見えるのに。
「俺たちねぇ。・・・・団長・・・・んーサーカス団とか?」
「ちげぇーし」
俺が疑問系で聞くと、眉なし兄さんが返す。
「幻影旅団」
「は?」
「だから、俺たちは幻影旅団だ」
「・・・・・・・・・なんだっけソレ」
真中のあたりからの声が教えてくれたが、イマイチ思い出せない。
聞いたことは在るんだけど、なんだっけー。
あ。やべっ!歳かも!思い出せない!!!
「あ゛ぁ―――。俺痴呆かも」
凹む―――。
「はぁ、君ネェ;・・・仮にも念応力者でしょう?知らないの?蜘蛛」
「蜘蛛?」
さわやか兄さん分かりません。
「盗賊よ。一応A級賞金首だったかしら」
「へぇ―――。あ!思い出した。たしかA級ですよ」
10・・・何人だっけ?かの盗賊で危ないんだよねぇ。
でも此処には5人しかいないようだ。
・・・・あ。ヤベっA級には関わっちゃダメとか言われてたんだった。
・・・・・・・・・・・・・・ま、いいか。
っていうかA級って幾らくらいの賞金なんだかな。
「・・・・・・・雨がやむまで居ればいいさ」
ふっと、息を吐くような音がしたあと、そういわれた。
「マジで?!うぁーありがとうごさい・・・・いや、もともと俺の仮宿だし・・・んーなんて言うべきよ?」
「なんだ?じゃぁ、あのベットの厭に綺麗な部屋や食料はお前のか?」
「そうですよ?まぁ、仕事は終ったんで、雨上がったら荷物まとめて出てきますんで、気兼ねなく使ってくれていいですよ」
「・・・・・・そうか」
?何なんだ?まぁいいや、とりあえず着替えないと。泥だらけだしな。
「んじゃ、俺風呂使いますんで」
「あ、あぁ」
そうして、俺はその場を離れた。
20050503