朝の気配に目を覚まし、いつもは感じることのない腕の中の温もりに、グウェンダルはどことなく穏やかな気持ちになるのを感じた。

 

 

この気持ちをと呼ぼう。

 

 

腕の中には双黒の少年が眠っている。よほど疲れていたのか、差し込む朝の温かな光に目を覚ますことなく寝息を立てている。やわらかな光に照らされた穏やかな寝顔は、見ていて飽きないものだった。いつのまにか自分の手は彼の頭を撫でていて、ハッとするものの、その心地よさにまた髪に手を伸ばしてしまう。どことなく子猫たんを思わせて口元が緩んでしまう。めぇと鳴いてくれたなら所構わず抱き上げてしまうに違いない。
そこまで考えて、再度ハッとする。
グリエの言葉が頭を掠めたからだ。

 

(・・・・恋、か)

 

長い間そんな甘い感情を抱くことはなかった。戦が続き、執務も忙しい日々が続いた所為でもあるだろうが、自分はそういったことには向いていないのだと思う。

 

この少年、
確かに自分はこの少年に庇護欲を感じている。
もう憎からずと思っていることは、もう間違いない。認めよう。
しかし、これが恋かと聞かれると、そうではないような気がする。まだ出会って日が浅いこともあるし、日頃顔をあわせることも少ないからという事もあるだろう。

 

どうも扱い方が難しいと感じている。
私は自他共に認める可愛いもの好きであるのは事実だ。
そして はそんな私の心を鷲掴むほどに愛らしいのも事実だ。
この腕にすっぽりと包めてしまう小ささ!控えめな態度に円な瞳!頼りなさそうにしている様子も庇護欲をそそるものだ。

 

しかし、彼が私に遠慮しているとというか、私と居ると緊張してしまうようで、心労になっている様子だったため、あまり頻繁に構いにいくのも戸惑われ、何よりグリエのよけいな一言の所為で、私自身少々気まずかったのも大きな理由だ。

 

そんな私が への何故接触を決意かというと、度重なる の気絶だった。何が理由なのかは知らぬが、どうも眠れない様子。しかも心配をかけまいとお付きの侍女ティアに何も言わないばかりか、気取らせないという徹底ぶり。
というか、なぜかティアが側に居ても眠れぬ様子だった。何故私が触れると眠れるのかは、これから起きた に聞くとしよう。
とにかく、私はふらふらと弱々しい様子の を放っては置けなかったわけだ。

 

すやすやと眠る へ視線をやる。
愛らしい者は健やかにあるべきだ。寂しさに震えていてはならないのだ。
ふいに との出会いの場面が頭を掠め、眉をしかめる。

今は穏やかな寝顔、その頬に指を滑らせた。初めて出会ったときのような傷や泥はきれいに浄化されている。柔らかなそれは柔らかな光に照らされて、いっそ神々しさまで感じるようだ。
ふいに、なにかに誘われるかのように、気づけば。

気がつけば、の頬に口づけていた。

時が止まったような気がした。

自分の行動に驚いた。しかし、同時にひどく穏やかな気持ちであることに戸惑っていると、の黒い睫毛が震えた。

「・・・・っ」

焦り、戸惑う。しかし頭の片隅は妙に冷静に自分を客観視できている。

は何度か瞬きすると緩慢にグウェンダルの胸にすり寄ると安心したようにまた眠ってしまった。

「・・・・、ふ・・・・」

いつの間にか息を詰めていたようで、私はそれをゆっくりと吐き出した。

何かが変だ。

・・・・こい。

恋、恋、恋か。

胸にすり寄って来た の頭を柔らかく撫でることを再開しながら、久しく聞いていなかった、最近意識してる言葉を反芻する。
張り裂けんばかりに胸が高鳴ることはない。若さのままにひた走るような熱情も。

 

しかし、何なのだ。この少年を腕に抱いている幸福感は、充実感は。

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