「しかたがない、これからは寝台をともにする」
恥ずかしながら、全てを話した俺に、彼は爆弾を投下した。

 

 

キミがくれたしい時間

 

 

「・・・・・え?」
「だから、一人で眠れないならば、共に寝ればいいと言っている」
思わず聞き返せば、フォンヴォルテール卿の眉間にしわが寄る。

そんなことを言われても困ってしまう。たしかに、嬉しい提案である。
どうも、俺はフォンヴォルテール卿とミーアに共通のものを感じて安心するらしいけれど、フォンヴォルテール卿の負担にはなりたくはない。
彼は命の恩人だし、この土地の領主だ。できれば少しでも役に立ちたいと思っているのに、これでは・・・。

自分の弱さに情けなくなる。

「・・・・そんな顔をするな」

よほど俺は情けない顔をしていたのだろうか、そんな優しげな声とともに、頭を撫でられた。
大きな手が気持ちよくて、つい目を細めてしまう。
「・・・・っ!」
「・・・フォン、ヴォルテール卿?」
急に固まった彼に、どうしたのかという意味を含めて名前を呼ぼうとしたら、つっかえてしまった。
この国の人の名前は複雑で、まだ慣れない舌では、たまにこうして失敗する。

「グウェンでいい。近しい者は大抵そう呼ぶ。発音しにくかろう」
「え・・・でも」
領主様をそんな風に呼んでいいものだろうか。
日本人である俺からすると、年齢も立場も上の人を呼び捨てするのは躊躇われた。

「私はお前を近しい者だと思っているのだが、お前は違うのか?」
「い、いいえ!」
そんな滅相もない。フォンヴォルテール卿は、この世界で最も大切で大事な存在の一人であることは間違いない。
「だったら、グウェンと呼べ」
どこか期待した瞳で見つめられる。・・・どこの国でも、ニックネームで呼ばれる事は嬉しい事なのだろうか。
日本ではそういった風習はあまりないけれど、海外ではおじさんとかをニックネームで読んでいたりするし。
・・・・・フォンヴォル・・・じゃなくて、ぐ、ぐうぇんの視線が痛くなってきた。
そう見つめられると恥ずかしいんだけれど・・・。

「・・・・ぐうぇん」

恥ずかしくて、ちらりとだけ視線をやって、読んでみたけれど、見事に幼稚な発音になってしまった。
「・・・っ!」
「うわ!」
失敗した発音に、少し照れていると、なぜか、感激した!みたいな顔で、抱きしめられてしまった。

・・・・大きいなぁ。
俺なんて完璧に抱き込まれてしまう。暖かい。それに、なにかいい香りがする。安心する。

そろりとグウェンの背に腕を回せば、抱き返される。
とても優しく包み込まれて、心地いい。このまま寝てしまいたいくらい。

「私のことは気に病む必要はない。お前と過ごす時間ができるのはよいことだ。今までろくに相手をしていなかったな」
抱き込まれたまま、耳元で心地よいバリトンが言葉を紡ぐ。
いつもならば取り乱すような体勢であるのに、何故か俺は安心しきっていた。
「今迄は、お前の負担になるのではないかと思っていたが、思えば馴れ合わないことには、いっこうに近寄れない。
 だんだんと私に慣れてくれ」
「・・・・・はい」

この時、俺はもう、グウェンに懐いてしまっていたに違いない。
とても気持ちが安らかだ。
俺の様子を感じ取ったのか、グウェンがクスリと笑って、もう少し寝ていろと言ったのを聴いたのを最後に、俺の意識は途切れた。

 

久しぶりに、とても安らかな夢をみた気がする。

 

 

 

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