こ、腰が痛い。
進んだはずの一歩
馬に揺られること半日以上。
俺は初めての乗馬でかなりへこたれていた。
腰・・・っていうかおしりが痛い。
ヨザックの提案でフォンヴォルテール卿の馬に相乗りさせてもらっているわけだけど、彼はさすが慣れているのか疲労の色は見えない。
それはヨザックも同じで、俺だけ弱音をはいて重荷にはなりなくなくて頑張ってたけど、コレはちょっと思っていたよりキツイ。「・・・大丈夫か」
痛みに耐えていると上から声。
フォンヴォルテール卿だ。
俺はとりあえず、大丈夫だと頷いておく。
・・・まだ俺の声は戻らない。
フォンヴォルテール卿は眉間に皺を寄せたまま、「そうか」と呟いて前へ視線を戻した。
ちなみに俺は、不本意ながら彼より随分小柄なため、彼の後ろではなく、前に乗せられている。
なんていうか、ナチュラルにひょいっと持ち上げられたときはショックだった。
小さい頃父さんにやってもらった以来だったし。俺18歳だし。
・・・彼等から見れば随分な子供なんだろうけど。
「乗馬初めてなんだろ?大変だろうけど、もうすぐ町につくから、そこまで我慢な」
隣についていたヨザックが、俺の情けない顔を見たせいか苦笑してそう促した。
うぅ、情けない。
それからしばらくするとヨザックの言った町が見えてきた。
辺りはもう夕暮れで、そろそろ薄暗くなってくるだろう。「今日はこの町で一泊しましょ」
ヨザックがそういって先に宿を取りに行った。
俺はもうやせ我慢の限界近くまできてて、腰がヤバイ。おじいちゃんになってること間違いナシだ。フォンヴォルテール卿はゆっくりと宿の裏に馬をつけると、流れるような動作で馬を下りた。
ヨザックの馬の隣に綱を括りつけて、いたわるように馬を撫でてやってから、俺に手を伸ばした。
脇の下に腕を差し入れられて、またもひょいって下ろされる。「っ!」
「・・・立てるか?」下ろしてもらったけど、腰とおしりが痛くてついよろけてしまった。
フォンヴォルテール卿の腕にしがみつかせてもらってやっと体勢を立て直す。
・・・俺、カッコ悪い。立てるんだけど、ちょっと歩くのは痛い感じだ。まさにへっぴり腰でおじいちゃん。
しばらくすれば慣れて平気になると思うけど。
「閣下〜っと、大丈夫か ?」
もたついているとヨザックがひょっこり顔出した。顔は苦笑い。
・・・・・・・情けない。「閣下、部屋なんですけど、生憎いっぱいだそうで。無理言って二人部屋を一つ明けて貰いました。だから今日はそれで我慢してねん」
そう言って最後は人差し指を立てて可愛く(?)ポーズを決めるヨザック・・・いや、あれはグリ江ちゃんか。
そうして通された部屋。なかなか広くて男3人で入っても圧迫感はあまり無い。
ソファーも大きいし、ついてるお風呂も中々広い。
店の人はいい部屋を空けてくれたみたいだ。「 、疲れただろ?先に風呂はいったら?」
部屋に着いて一段落ついたところでヨザックがそう気遣ってくれた。
何だか一番年下な俺が先に入らせてもらうのも気が引けて首を横にふる。「遠慮しないの。 風呂好きだったろ?ゆっくり体解してきな」
優しく笑って促してくれるヨザック。
俺はお風呂の誘惑に負けそうになって、もう一人の同行者フォンヴォルテール卿を伺い見る。
ここで一番偉い・・・っていうのも変かな。うーん、まぁリーダー?みたいな存在は彼だから。
フォンヴォルテール卿は俺のことを伺っていたみたいで直ぐに視線があった。「・・・・先に湯殿へ行け。私たちは後でかまわん」
ちょっとした間のあと、彼はそれだけ言うと俺から視線を外した。
俺は機嫌を損ねるか何かしてしまったのかと不安になってヨザックを伺う。
ヨザックは小さく笑って、いいから入ってきなと俺の背中を押した。
大丈夫、閣下は照れてるだけだから。とかいう、良く分からない台詞を残して。
俺はちょっと不信に思いながらも、押し込められてしまった脱衣所で服を脱ぎ始める。
タオルを持ってお風呂へ。
もうお湯は張ってあって、湯気が充満していた。
洋風なこちらの世界で意外だったのは、日本と同じように湯船に湯はって浸かる文化があったこと。
お風呂好きの俺からすればありがたい。体と髪を良く洗ってから湯船につかる。
いいお湯加減に思わず溜息。
鼻歌でも歌いたくなるくらい心地いいけど、今だ俺の声は戻らない。
早ければ今日中に治るかもと言われていたが、やっぱり明日まで戻らないんだろう。
ふと、このままずっと戻らないかも・・・とか、後ろ向きなことを考えそうになって、あわてて頭をふってそれを追い出す。ゆっくり浸かって疲れもちょっと癒えたところで、俺は風呂を出た。
ちょっと不安になって、二人のいるところに行きたくなっちゃったのかも知れないけど、恥ずかしいから認めない。脱衣所には丁寧にもバスローブっていうのかな?タオル生地の浴衣みたいなのが三着置いてあった。
初バスローブ・・・とか馬鹿なことを考えながらそれに袖を通す。
アレだよね、悪いボスとかがコレ着てお酒とか飲んでるのとか、よくマンガにあるよね。
ちょっとリッチな気分?ふふっと笑いを漏らして、髪を拭くためにフェイスタオルに手を伸ばす。
けど、ちょっと高い。もうちょっとなのに背伸びしてもギリギリ届かない。
「・・・・・・・・」
ここの人たちって大きいよね。今日、初めて冷静に町と人を見たけれど、やっぱり町はヨーロッパ風だし、周りは澄んだ空気に綺麗な山々。
見かける人は皆カラフルな髪と目。
そして成人してる人は皆身長が高め。
・・・・・・・やっぱり、日本人とかの骨格とは違うからかな。
顔立ちだって皆しっかりしてて、東洋人みたいな、のっぺり顔の人なんて見かけなかった。俺は小さく溜息を吐くと、片足で頑張って背伸びする。
「!」
あ、ちょっと触れた・・・。
俺は喜びに少し口元を緩ませる。
あとちょっと、と、軽く飛び跳ねる。そして
――――ぐっと、俺の体が後ろに引かれた。
首筋に押し当てられた冷たい何か。
そして胸の前のがっちり俺を押さえ込む腕。
「大人しくしろ」
知らない男の声。
高い位置にあったタオルは俺の指に当たってはらりと落ちた。
それを喜ぶことなく、折角温まった俺の体からは、血の気が引いていった。
20070316